長内那由多のMovie Note

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『イベリン 彼が生きた証』

2025-02-11 | 映画レビュー(い)

 マッツ・スティーンは生まれながらデュシェンヌ型ジストロフィーを患い、25歳の若さで生涯を閉じることになる。幼少期から車椅子での生活を余儀なくされ、思春期の大半を自室でのTVゲームに費やした。両親は我が子が友情や恋、社会と関わることなく世を去ったことに打ちひしがれる。ある日、マッツが残したブログパスワードからネット上に訃報を知らせると、驚くことに多くの哀悼メールが送られてきた。マッツはオンラインゲーム上で多くの友人を作り、全く別の人生を歩んでいたのだ。

 世界的な人気オンラインゲーム『ワールド・オブ・ウォークラフト』の世界でマッツは"イベリン”という名前で生きていた。表向きは“私立探偵”を名乗っていたようだが、その実はお悩み相談だったようだ。外の世界を知らないからこそ親身なイベリン=マッツのアドバイスに多くの人が心動かされ、時に大きな人生の転機すら迎えるが、他人との関わりが増えれば当然、肉体を通わせる必要が出てくる。マッツがその心優しさ故に自身の病状を打ち明けるべきか悩んでいく様は切ない。

 本作は『ワールド・オブ・ウォークラフト』に残されたゲームログからマッツの軌跡を解き明かし、両親が折り合いを付けていくドキュメンタリーであるのと同時に、面白いことにSF的な主題もはらんでいる。マッツにとっての"世界”とは何処にあったのか?彼の精神はひょっとするとネットに海に生き続けるのかもしれない。イベリンの名前も刻まれたマッツの墓碑に、人間のアイデンティティについて考えずにはいられなかった。


『イベリン 彼が生きた証』24・ノルウェー
監督 ベンジャミン・リー

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