長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『クラブゼロ』

2024-11-29 | 映画レビュー(く)

 オーストラリアの名門私立校に新任教師ノヴァクがやって来る。地球にも人体にも優しい“意識的な食事”を提唱する気鋭の栄養学者だ。過食と添加物を強要する食品産業を否定した教育に、生徒たちは感化され、やがて食事を控え始めていく。そしてノヴァクは摂食ゼロのメソッド“クラブゼロ”の存在を明らかにする…。

 ジェシカ・ハウスナー監督の『クラブゼロ』を反社会的と取るか、鋭い社会批評と取るかはあなたの食習慣によって異なるかも知れない。だがアイデンティティポリティクスが生んだ“正しさの強要”が1つの結末を見た2024年、摂食を巡る本作はピリリと辛いどころかエグみがたっぷりだ。本質よりも“正しさ”に感化され易い者にとってデマは容易に真実となり、カルトへと変貌。異を唱える者は対話ではなく排除の対象となる。子どもたちは「正しい信念」と口にするが、親たちは「正しいことは難しい」と頭を抱えるばかり。子どもたちの言う「より良い場所」を文字通り絵空事とする皮肉には怒り出す観客もいるかもしれない。口に合わなくとも、映画を観続ける者は時に作家の果敢な挑発を口に含んでみるべきだ。


『クラブゼロ』23・豪、英、独、仏、他
監督 ジェシカ・ハウスナー
出演 ミア・ワシコウスカ
※2024年12月6日(金)公開 公式サイト

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『アプレンティス ドナルド... | トップ | 【ポッドキャスト更新】第80... »

コメントを投稿

映画レビュー(く)」カテゴリの最新記事