
映画には度々“聖なる白痴”が登場する。社会的に落伍した者でありながら人生に惑う主人公を助け、周囲の人々に笑顔をもたらし、そして時に映画に安易な感動をもたらす都合の良いキャラクターだ。
スコット・スピードマン(心配になってしまうくらい痩せ細っているが、どうしたのだろう)扮するジェイはムショ上がり。仮釈放中の彼は病院の清掃係として働いている。実家は大金持ちの資産家で、もうじき弟の結婚式のために帰省しなくてはならないが、これでは格好がつかない。
こんなドン底状態に女神のようなエヴァン・レイチェル・ウッドが現れたらそりゃ言う事なしだ。
彼女が演じるデイジーは精神病患者。看護師にレイプされかけている所をジェイに助けられ、後をついてくる。
「あなたと一緒に行くわ!」
アンドリュー・フレミング監督による本作は良心的だが(オリジナルは2006年のドイツ映画で何とティル・シュヴァイガーが監督・主演)、ウッド演じるデイジーとジェイが行動を共にするきっかけが弱く、ご都合主義に映る。ウッドが可愛らしい裏声でストリッパーから借りた露出の多い服を着回す姿なんて、『ウエストワールド』以来、今やフェミニズムという言葉すら超えたアイコンである彼女からすれば考えられない媚びた役柄だ。撮影当時、ウッドは20代後半のはずだが、このデイジー役は18歳くらいの設定に見える。天才美少女子役としてデビューした彼女だが、20代は本当にキャリアの迷走期だったように思う。バイセクシャルを公言している彼女のジェンダーレスな魅力は『ウエストワールド』の成功以後さらに輝きを増し、スターとしての自信すら感じさせる今日この頃だけになおさらだ。
後半、映画はロードムービーとなり、キャンピングカーという“家”が2人を新たなカップル、新たな家族へと成長させていくのはアメリカ映画の伝統である。決して不快な思いにはならない映画だが、主人公を真人間へと成長させるヒロインの造形はウッドが演じた事でより前時代的に感じられてしまった。
『ベアフット』14・米
監督 アンドリュー・フレミング
出演 スコット・スピードマン、エヴァン・レイチェル・ウッド、J・K・シモンズ
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