長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『鴛鴦歌合戦』

2023-10-10 | 映画レビュー(お)
 最近では2023年に上演された宝塚花組版をきっかけに本作を見た人も少なくないだろう。1939年の白黒映画を見るのは身構えてしまいそうになるところだが、マキノ雅弘という娯楽映画の塩梅を心得た者による小気味の良い1作だ。上映時間はたったの69分!長尺化が進む近年とは娯楽映画の考え方が異なることがよくわかる。

 長屋に暮らすイケメン浪人、禮三郎を巡って繰り広げられる恋の空騒ぎに、全編に渡って歌が散りばめられた本作は“オペレッタ時代劇”というジャンルに分類されるそうだ。小江戸をスウィンギングする楽曲の楽しさとカメラの移動、モノクロを超えた色彩設計の鮮やかさに、これを1週間で作れてしまう当時の日本映画のプロダクション力を伺い知ることができる。宝塚版はトップスターの柚香光、星風まどかがキャラクターのアップデートに成功。市川春代のおぼこさを取り入れた星風は独自のキャラクターを仕立て上げ、大いに笑いを誘っていた。柚香光も時代劇6大スターと称された片岡千恵蔵に劣らぬ格好良さ。公演時間の関係から本作をさらに30分長くしている宝塚版に足りないものがあるとすれば、それはお春の父親を演じた志村喬の存在か。騒動の発端となる傘張り浪人をのんしゃらんと演じ、困った人だがどうにも憎めない愛嬌を見せてさすがのサポーティングアクトである。

 公開当時はさほど評価されなかった本作だが、1985年のマキノ雅弘レトロスペクティブを経て再評価され、現在ではオペレッタ時代劇の傑作の1本に数えられている。この時代の作品群を掘り起こしてみたいと思わせてくれる逸品だ。


『鴛鴦歌合戦』1939・日
監督 マキノ正博
出演 片岡千恵蔵、市川春代、志村喬、ディック・ミネ、服部富子
 

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