長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『バッド・エデュケーション』(2019)

2020-06-23 | 映画レビュー(は)

 実際に起きた巨額横領事件を描く本作でヒュー・ジャックマンは新境地にしてキャリア最高の演技を見せている。彼が扮したフランク・タソーンは長年の改革によって全国有数の進学校を作り上げた教育者だ。教師人生で出会った全ての学生を記憶する熱心さであり、常にシワ1つないスーツを着こなす清潔感にあふれ、地域社会からの信頼も厚い、まさに“聖職者”である。

 ところが校内で同じく要職を占めるグラッキン女史(さすがのアリソン・ジャネイ)による横領が発覚。自身の功績に傷をつける事を恐れたタソーンは事もあろうにそれを隠蔽する。トップによる不正、汚職は本邦でも見慣れたアタマの痛い光景であり、タソーンもまた周囲をなだめすかし、恫喝し、事態をコントロールしようとどんどん深みにハマっていく。

 タソーンは実はクローゼットゲイであり、30年前に妻と死別したと公言しながらパートナーにはそれを隠し続けていた。さらには出張先で再会した教え子と愛人関係になっており、二重どころか三重の生活を送っていたのだ。彼はグラッキンをソシオパスだと糾弾するが、顔のシワ取り整形とスーツのシワ取りクリーニングに多額の公金を注ぎ込んでいた彼もまた横領犯にしてソシオパスであり、ヒューはそんなタソーンを哀れで滑稽に、しかし断罪する事なく演じて絶品である。それは『レ・ミゼラブル』『グレイテスト・ショーマン』『ローガン』にはなかった“弱さ”であり、ミュージカルとアクションでキャリアピークを極めた彼の大胆な新境地はおそらくエミー賞も席巻するだろう(本作はHBO放映によるTV映画)。

 振り返ってみれば日本もアメリカもソシオパスが国を支配する“総ソシオパス社会”である。この事件の第一報を学生による校内新聞が報じたという事実に驚きと希望を感じた。本作のもう1人の主人公は学生記者レイチェルであり、本作は権力の腐敗を正すジャーナリズム映画でもある。脚本家マイク・マコウスキーの在学中に起きた事件を基にしたという本作は奇妙な社会の歪みを風刺する事に成功している。


『バッド・エデュケーション』19・米
監督 コリー・フィンリー
出演 ヒュー・ジャックマン、アリソン・ジャネイ、レイ・ロマーノ、ジェラルディン・ヴィスワナサン、アレックス・ウルフ
 

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