長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『バルド、偽りの記録と一握りの真実』

2023-01-19 | 映画レビュー(は)

 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥはクリエイティヴパートナーの存在によって個性がガラリと変わるユニークな作家だ。いわゆる職人とは違い、悪く言えば無個性で、人間の数奇なめぐり合わせを描く初期作『アモーレス・ペロス』『21g』『バベル』は後に袂を分かつ事となる脚本家ギレルモ・アリアガの作風。2年連続アカデミー監督賞に輝いた『バードマン』『レヴェナント』はエマニュエル・ルベツキという“作家”とも言うべき撮影監督とのコラボレーションによって生まれたコンセプチュアリーな映画だった。彼らキーパーソンのいないイニャリトゥ映画はフィルモグラフィに埋もれ気味で、2010年の『BIUTIFUL ビューティフル』、そして本作『バルド』である。共に母国メキシコで撮られ、アカデミー外国語映画賞ノミネート(巧者の発表はまだだが、おそらくノミネートに手が届くだろう)、そして父性についての自己言及的な私映画だ。とりわけ本作『バルド』の主人公は国際的な評価を得て母国へと帰ってきたジャーナリストという設定から明らかにイニャリトゥ自身であることが伺える。家族との関係、キャリア、国家の歴史といったテーマがやはり名手ダリウス・コンジのカメラによって夢現のように横断するも、長回しでいながら全ての瞬間がマスターショットだったルベツキとは異なり、ただただ曲芸的で、マンネリ味だ(コンジの責任ではないだろう)。冒頭、主人公が空へと飛び上がるショットにフェリーにの『8 1/2』をやりたいのだなと察しが付くファンも少なくないだろう。イニャリトゥの夢にチャネリングができれば2時間39分はそう長くはないもしれない。


『バルド、偽りの記録と一握りの真実』22・メキシコ
監督 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演 ダニエル・ヒメネス・カチョ

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