長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『夏をゆく人々』

2017-08-15 | 映画レビュー(な)


夏休みというのは子供の頃は毎年やって来るものだと思っていたし、こうして大人になった今も何となく取る事はできるが、同じ夏休みというのは2つとなかったのかも知れない。ましてや多感な少年時代はたった1年で心も身体も大きく成長してしまう。それが女の子ともなればさらにその“少女である季節”というのはほんの一時にすぎないだろう。新鋭アリーチェ・ロルヴァケル監督はそんな一度限りの夏休みを瑞々しく述懐してみせた。カンヌ映画祭グランプリ受賞作だ。

トスカーナ地方の片田舎、人々は昔ながらの手法で酪農や農業に取り組んでいる。ヒロイン、ジェルソミーナの一家は養蜂だ。口うるさく亭主関白な父、優しくしっかり者の母(監督の実姉アルバ・ロルヴァケル)、まだ幼いがおしゃまな3人の妹、居候のココらと慎ましく暮らしている。ジェルソミーナは11~12歳だろうか。長女として家を支えなきゃという気負いがあるが、父は明らかに男の子が欲しかったのだとわかる。

古来から何も変わってこなかったこの地にも変化の兆しがやってきた。養蜂業は機械化を求められ、村にはTVの撮影隊がやってくる。ひょっとしたらこの夏が“最後の夏休み”かもしれない。美しい女神のように着飾ったTV司会者役モニカ・ベルッチの存在が村全体に祝祭的な幸福感を広めていく。そしてジェルソミーナの家には物言えぬドイツの少年がやってきた。ジェルソミーナはこれが初恋という自覚もないのだろう。静かに胸がときめいていった。

 旧跡で行われるTV収録で村人たちは一芸を見せる。ジェルソミーナのパフォーマンスはまるで乙女だからこそ成しえた神技のようであり、ロルヴァケルはここから映画をマジックリアリズムで彩っていく。それはまるで記憶の彼方に薄れていく子供時代の思い出のように秘めやかで切ない味わいだ。ふと過ぎ去り、そして2度とやってこない一夏を印象付けるラストシーンの夢幻をぜひ味わってほしい。絶品である。

『夏をゆく人々』14・伊
監督 アリーチェ・ロルヴァケル監督
 

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