長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ナワリヌイ』

2023-01-04 | 映画レビュー(な)
 ロシアの反体制活動家アレクセイ・ナワリヌイの毒殺未遂事件と彼の収監までを追った驚くべきドキュメンタリーだ。ロシアが隣国ウクライナへ軍事侵攻するという暴挙を目の当たりにした2022年、私達は改めてプーチンという独裁者の恐ろしさを思い知ったワケだが、これに遡ること2009年頃からプーチン批判の急先鋒として活動を続けてきたのがナワリヌイ氏だった。インターネットを駆使した戦略で瞬く間に支持を集めていった彼は2012年に米タイム紙の”最も影響力のある100人”に選出されるなど、国内外を問わず注目を集めていく(一方で打倒プーチンのためならネオナチとの連携も辞さない危うさも映画は撮らえている)。そんな彼をプーチン政権が野放しにするわけがなかった。2020年、ナワリヌイは体調の急変から意識不明の渋滞に陥り、救急搬送される。本作はこれがFSB(ロシア連邦保安庁)による毒物“ノビチョク”を使用した暗殺未遂であることを突き止めていくのだ。

 まさにスパイ映画さながらである。フリージャーナリストの助けを借りたナワリヌイは徹底したデータ主義による調査で実行犯を絞り込んでいく。犯人のパソコンのパスワードを解き明かす件や、諜報組織高官に成り済まして犯行計画を聞き出す様は笑ってしまう程のローテクと間抜けさだが、権力側の杜撰さこそが政治腐敗の最もたる姿である事は哀しいかな、私達にも身に覚えがあるだろう。ついに関与を疑われたプーチンが記者の問いかけに答える場面は衝撃的だ。「(もし)毒を盛るなら(確実に)殺していただろう」と、なんと彼はせせら笑うのである。ロシアは恐ろしいなんて指を咥えて見る映画ではない。

 本作は今年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞のショートリストに選出されている。未だウクライナ戦争の終わりが見えない中、最後まで幅広く票を集める事だろう。


『ナワリヌイ』22・米
監督 ダニエル・ロアー

 

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