長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ビーチ・バム まじめに不真面目』

2021-06-10 | 映画レビュー(ひ)

 最近、どうもイライラする。コロナのせいだ。仕事あがりの1杯を飲みに行けなければ、友人と集まることもできない。この1年に知り合った人はマスクのせいで素顔も知らない。職場は政権とベッタリで、給料は派遣会社にピンハネされ、オレ達はいい使い捨てだ。国は私利私欲のためにオリンピックを強行し、酒も映画もダメだが通勤電車はOKだなんて”緊急事態宣言”がもう何ヶ月も続いている。最近、道や会社でマスクをしていない奴を見るとどうにもイライラしてしまって…。

 そんな時に『ビーチ・バム』を見た。95分間、マスクの下で笑いっぱなしだった。ハッパとアルコールでトロトロになったマシュー・マコノヒーのなんと愛らしいことか。彼演じる浜辺の詩人ムーンドッグはかつて文壇を賑わせた時代の寵児だが、今はセレブ妻の金で酒を飲み、遊び惚けるばかりだ。でもムーンドッグは誰にも迷惑をかけない。誰も批判しない。この世の規範から外れることの自由と幸福。チクショー、なんて羨ましいんだ!

 「オーライ、オーライ、オーライ」こそ言わないが、本作はマシュー・マコノヒーの真骨頂だ(あの裸ボンゴまで披露)。ギャラを度外視し、役柄と物語にこだわった出演作選び”マコネッサンス”によって演技開眼した彼は2013年『ダラス・バイヤーズクラブ』と2014年『トゥルー・ディテクティブ』の連打で頂点を極め、『インターステラー』ではノーラン演出をも凌駕した。その後、これらを超える本塁打がなかなか出なかったが、まさかハーモニー・コリンがマコノヒーの楽天と野放を撮らえるとは。しかも彼のテキサス訛りとセリフ回しはそれはそれはポエトリーリーディングによく映えるのである。
 見逃さないでほしい。ムーンドッグは時折、笑いながら涙をこぼしている。不真面目でデタラメな彼はこの世の哀しみと美しさを知り、涙と笑顔で全てを抱きしめているのだ。まるで聖人のような底知れなさを体現するところに、今のマコノヒーの凄さがある。

 『ビーチ・バム』はクソ最高の1本だ。でも人生に悩んでいる人や酒飲みは気をつけるように。見るタイミングを間違えると「明日から会社行かねー」と人生を棒に振りかねないぞ!


『ビーチ・バム まじめに不真面目』19・米
監督 ハーモニー・コリン
出演 マシュー・マコノヒー、スヌープ・ドッグ、アイラ・フィッシャー、ザック・エフロン、マーティン・ローレンス

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