長内那由多のMovie Note

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『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』

2021-03-11 | 映画レビュー(は)

 アビーとハーパーはレズビアンのカップル。ハーパーが夏の帰省で家族にカミングアウトしたというので、今年のクリスマスは満を持してアビーと一緒の里帰りだ。ところがその道中、ハーパーは告白する「ごめん、実はカミングアウトできなかったの…」。

 『ハピエスト・ホリデー』はハリウッドが得意とするクリスマス映画であり、監督クレア・デュヴァルは時おり腰が重いものの、笑いあり、涙ありの伝統的ハリウッドコメディへ仕上げることに成功している。何より重要なのはLGBTQカップルを主人公にしたクリスマス映画が、これまでメインストリームに存在しなかったことだろう。本作はデュヴァルの実体験を基にしており、彼女自身「映画の中で自分たちが表現されていないのを見ることに慣れてしまっていた」と発言している。これまでヘテロセクシャルの恋愛映画を見てきた同性カップルが、クリスマスの夜にクリステン・スチュワートとマッケンジー・デイヴィスのラブコメディを見られたら…なんとも素敵な時代になったじゃないか!

 もちろん、クリステンとマッケンジーは全人類必見のスクリーンカップルだ(このキャスティングを考えた人、天才か!?)。近年、作品に恵まれなかったクリステンが、ここでは監督のデュヴァルをはじめ、アリソン・ブリー、オーブリー・プラザら実力派女優陣に囲まれ、終始リラックスした雰囲気でキュートな魅力を発揮しているのが嬉しい。
 方や、マッケンジー・デイヴィスはイイ所のお嬢さんであるハーパーをちょっとおっとり気味に演じており、性格俳優としての才能を見せた。本人は意図して選んでいないというが、珠玉の傑作『サン・ジュニペロ』(『ブラックミラー』S3E4)、『タリーと私の秘密の時間』、そして『ターミネーター ニュー・フェイト』(これ、そういう映画ですよ)と連投し、今やゲイアイコンの1人だ。

 筋運びは王道ながら、ディテールの豊かさに本作の魅力がある。アビーはハーパーのお父さんの前で求婚をするという、劇中の言葉を借りれば「家父長制の悪癖」とも言うべきプロポーズを夢見ており、ベタなロマンチック願望に性差はないのだなと微笑ましく感じた。また、本作の舞台となるペンシルベニア州は、先の大統領選挙でも混戦になったアメリカ有数の保守地盤。地方出身者としては、道を歩けば同級生に出くわし、大人になっても子供時代の因縁を引きずらざるを得ない田舎の窮屈さは大いに共感できた。

 2人がクリスマスの夜に足を運ぶ劇場では『素晴らしき哉、人生!』が上映されている。本作はLGBTQの新たなスタンダードとなるべく、往年のクリスマス・クラシックへオマージュが捧げられているのだ。


『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』20・米
監督 クレア・デュヴァル
出演 クリステン・スチュワート、マッケンジー・デイヴィス、アリソン・ブリー、オーブリー・プラザ、メアリー・スティーンバージェン、ヴィクター・ガーバー、ダニエル・レヴィ

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