長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『マリッジ・ストーリー』

2020-01-10 | 映画レビュー(ま)

タイトルに反して離婚の物語である。
冒頭、ニコールとチャーリーの夫婦は互いの好きな所を挙げていく。相手に敬意を持ち、欠点すら受け入れるそれは愛情以外の何ものでもない。このシーンだけで僕らは2人の事が大好きになってしまう。ようやくアベンジャーズから解放されたスカーレット・ヨハンソンと、ようやくスター・ウォーズから解放されたアダム・ドライヴァーが見せる自然体の表情が何とも魅力的だ。両親の離婚を基にした2005年作『イカとクジラ』でブレイクした私小説映画作家ノア・バームバックが、今度は自身の離婚体験を基に映画を撮った。ここにはかつての突き放すような冷徹さはなく、温かい人間洞察に根差したヒューマニズムが満ちている。

 バームバックは女優ジェニファー・ジェイソン・リーと2005年から2013年まで結婚しており、離婚後のうつ状態を『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』で描いている。この映画でバームバックそのものである主人公ベン・スティラーを無償の愛で助けるのがグレタ・ガーウィグであり、以後、彼女はバームバック映画のヒロインとして『フランシス・ハ』『ミストレス・アメリカ』とコラボレートしていく。彼女のフェミニンな柔和さはバームバック映画から冷徹さを取り払い、優しさを与えていった(その後、2人は結婚)。

 バームバックが元妻ジェニファー・ジェイソン・リーを憎んでいない事はいつになく魅力的なスカーレット・ヨハンソンからも明らかだ。彼女が演じるニコールはかつてライジングスターとして注目を集めたが、チャーリーと出会った事でNYへ移住、舞台女優としてキャリアを研鑽する。だが、いつだって評価されるのは演出家のチャーリーであり、ニコールは自身のキャリアを棒に振ったと感じていた。
 ヨハンソンも35才、バツ2、そして母親である。そんな人間的厚みをマーベル映画で見せる余地はなく、本作の目標にまい進し、時に(キュートな)地団駄を踏む彼女を見れば、バームバックがリーを敬愛し、感謝している事も明らかだ。

 一方、近年のバームバック映画の常連アダム・ドライヴァーが監督の分身チャーリーを演じる。妻からの突然の三行半にうろたえ、親権獲得に奔走するも思うようにままならない。とうにロールモデルとなる父権は存在せず、ドライヴァーは男の弱さを繊細に見せる。終幕、怒りをぶつけあうニコールの目には涙が光るが、なんとチャーリーは顔を覆って泣き崩れてしまうのだ。そして思いの丈をカラオケにぶつける。『アド・アストラ』のブラッド・ピットといい、2019年は“男らしさ”を解体した俳優達の繊細さに心動かされた。

 2人を囲む助演陣も充実している。離婚弁護士役にアラン・アルダが登場し、これまで度々指摘されてきた私小説作家としてのバームバックとウディ・アレンが邂逅する。そして『ビッグ・リトル・ライズ』のスピンオフみたいなノリで演じるローラ・ダーンはオスカーノミネート確実だろう。

 バームバックは夫婦という他人同士の間に家族の絆を見出した。終幕、スカジョが見せるある“愛の印”に僕は泣かずにはいられなかった。


『マリッジ・ストーリー』19・米
監督 ノア・バームバック
出演 アダム・ドライヴァー、スカーレット・ヨハンソン、ローラ・ダーン、アラン・アルダ、レイ・リオッタ、メリット・ウェバー

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