職業は中小企業の経理係、朝のゴミ出しを忘れては妻に白い目で見られ、息子には疎んじまれる…そんな彼の正体は「アルファベット3文字の政府機関」を引退した最強の殺し屋だった…!その話、もう何度も聞いたよ!!
『Mr.ノーバディ』は所謂“ナメてた相手が殺人マシンでした映画”の亜流であり、近年のリーアム・ニーソン映画に代表される白人高齢男性アクションの最新作だが、主演におよそアクションのイメージとは程遠い名優ボブ・オデンカークを迎えたことで成功を収めている。オデンカークといえば『ブレイキング・バッド』『ベター・コール・ソウル』の人気キャラクター、ソウル・グッドマンに代表される小狡い小市民役が十八番。そんな彼が強い怒りを抱えた男に扮し、『ジョン・ウィック』チームによるハードアクションに挑戦してこれが思いの外キマっているのだ。オデンカークを知らない(不届きな)観客はケヴィン・コスナーと間違えるかも!
さらに観客が『ブレイキング・バッド』『ベター・コール・ソウル』を経由していることで、本作には意図以上のニュアンスが生まれている。冒頭、家庭に居場所のないオデンの姿はソウル=ジミーよりもウォルター・ホワイトの姿がダブり、本作がミッドライフクライシスを描いたブラックコメディであることが強調される。後半、凶悪なロシアンマフィア相手に「そりゃねーだろ」という強引なネゴをかますシーンでは“滑りのジミー”も重なってニヤリ。そもそも『ジョン・ウィック』シリーズのキアヌですら相当な被弾率であり序盤、路面バスでの満身創痍ぶりも実に“らしい”のだ。もちろん、監督のイリヤ・シュナイダー以下スタッフがアルバカーキサーガのファンであることは推して知るべしだろう。
フィジカルとコレオグラフで魅せ、見る者の痛覚を刺激しながらも露悪的にならない本作のバランス感覚はコロナ禍の全米市場でスマッシュヒットを記録。オデンさん、これで戦闘能力としてはラロと互角かそれ以上じゃね?
『Mr.ノーバディ』21・米
監督 イリヤ・シュナイダー
出演 ボブ・オデンカーク、コニー・ニールセン、RZA、クリストファー・ロイド
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