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近年、アメリカ映画界では『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ、『クワイエット・プレイス』のジョン・クラシンスキー、『ワイルドライフ』のポール・ダノ、そして『アリー/スター誕生』のブラッドリー・クーパーと実力派俳優の監督デビューが相次ぎ、そのいずれもが傑作というこれまでになかったムーブメントが起きている。ここに『マネーボール』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で2度のアカデミー助演男優賞候補に挙がったジョナ・ヒルが加わった。少年時代を送った1990年代を描く自伝的作品だ。
一所懸命に背伸びをして不良ぶっていたジョナ・ヒル少年が目に浮かぶようで微笑ましい。主人公スティーヴィー(13歳という設定だが、もっと幼く見える)は近所でたむろしているスケボー少年達に憧れの目を向けていた。母は「あいつらはギャングよ」と言うが、とんでもない。自由を愛し、スケボーを愛する性根のいい奴らだ。とりわけリーダー格のレイはボードのテクニックも一流なら、不良ぶりも筋が通って気持ちがいい。『スーパーバッド』などこれまでも数多くの“ブロマンス映画”に出演してきたジョナ・ヒルだけに、少年達のダラダラした日常と友情はコメディ要素が強く、笑える。さらに16mmフィルムでの撮影によってガス・ヴァン・サントやハーモニー・コリンといった90年代前半のアメリカンインディーズの空気を再現している事にも驚かされた。現在の俳優監督ブームを支えている1つの要素は彼らの熱心で勤勉なシネフィルぶりだ。
本作は2018年に全米で公開されたが、日本では2020年9月まで待たされる事となった。“ジョナ・ヒル初監督”という興行的未知数ゆえ、世間的評価が固まるまで見送ってしまったのは理解できるが、Black Lives Matterが激化した今日、本作をカミングエイジストーリーとして暖かく見るのはちょっと難しい。スパイク・リーがロス暴動を基に『ドゥ・ザ・ライト・シング』を発表して物議を醸したのが1989年。1990年のロスで白人少年であった事はこんなにも牧歌的なのか。ジョナ・ヒル少年が黒人やヒスパニックの抱えている問題を垣間見る描写はあるものの、それを現在のジョナ・ヒル監督が捉える視線はやや弱く、公開時期の問題とはいえ2018年という“過去の映画”になってしまったのが惜しい。
スティーヴィーの歳の離れた兄を演じるルーカス・ヘッジズについて触れておこう。ワルぶってはみるものの、弟のような無邪気さと大胆さは持ち合わせておらず、スティーヴィーが妬ましくて事ある毎に暴力を振るう。そんな弱さを自身も重々承知しており、「カノジョも友達もいないくせに」とバカにされて崩壊する場面ではまたしてもキャリアを更新した。役の大小にこだわらない作品選択眼の頼もしさはもちろん、男の弱さと優しさを体現できる現代性を持った俳優として目覚ましい躍進ぶりである。
『mid90s ミッドナインティーズ』18・米
監督 ジョナ・ヒル
出演 サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ナケル・スミス、オーラン・プレナット、ジオ・ガリシア、ライダー・マクラフリン、アレクサ・デミ
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