長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ミッドナイト・スカイ』

2021-01-08 | 映画レビュー(み)

 2005年はイラク戦争の反証として多くの傑作社会派映画が公開され、ジョージ・クルーニーもニュースキャスターのエドワード・マーロウが赤狩りに立ち向かう『グッドナイト&グッドラック』を発表。アカデミー賞で6部門にノミネートされ、監督としての地位を高めることになる。本人もどちらかと言えば監督業の評価が欲しいのか、この年のオスカーでは『シリアナ』で助演男優賞を獲得するも「これで監督賞はナシってことか」と肩をすくめて見せたのだった。

 それから15年、彼は政治映画と偏愛するクラシック映画へのオマージュ作品を交互に発表し、この『ミッドナイト・スカイ』が監督第7作目となる。アメリカ建国以来、最も重要と言っても過言ではない選挙の年にクルーニーは当然、強力なメッセージ性の政治映画をぶつけてくると思われたが、意外やメランコリックなSF映画であった。

 ムリもないか。数々の美女と浮名を流した二枚目スターも60歳。アクが抜け、地球最期の時を一人寂しく迎えようとする老人を照れ隠しなく演じられるようになった。6年前に身を固め、今や2人の子供の父親である。政治ももちろんだが、環境破壊に対する強い危惧があるのだろう。クルーニー演じる主人公オーガスティンは恒星間飛行の旅に出た娘(フェリシティ・ジョーンズ)に、地球に戻ってくるなと伝えるべく奮闘する。地球は急激な大気汚染により、死の星となりつつあるからだ。

 しかしリリー・ブルックス・ダルトンの原作を映画化するにはいささか詩心が足りない。滅びゆく地球で1人死を待つクルーニーの姿はコロナショックに揺れる現代人のメンタルにマッチしているし、無機質なプロダクションデザインもその効果に寄与している。しかし、フェリシティ・ジョーンズのパートは『ゼロ・グラビティ』で培った経験値を応用しているだけで、2つのプロットはエモーショナルな化学反応に至っていない。近年、『ローグ・ワン』『イントゥ・ザ・スカイ』と女傑ぶりを見せてきたジョーンズも見せ場に乏しい。クルーニーの監督前作『サバービコン』で息の合ったアレクサンドル・デスプラはコンセプトも明確に共有できていないのか、古風なスコアでミスマッチに終わってしまっている。

 クルーニーを見ているとシネフィルであることが必ずしも素晴らしい映画作家の条件になり得えず、自由な創作環境がプラスに働かないことわかる。俳優として新たな境地に入っただけに俳優業に集中してほしいような気もするが、再びメガホンを取るなら今1度、本当に撮りたいものを撮ってほしいところだ。


『ミッドナイト・スカイ』20・米
監督 ジョージ・クルーニー
出演 ジョージ・クルーニー、フェリシティ・ジョーンズ、デビッド・オイェロウオ、デミアン・ビチル、カイル・チャンドラー、マヤ・ローレンス、ソフィー・ランドル
 

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