長内那由多のMovie Note

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『ボバ・フェット The Book of Boba Fett』

2022-05-12 | 海外ドラマ(ほ)

 『マンダロリアン』シーズン2で37年ぶりに大復活を遂げたボバ・フェットが早くも単独TVシリーズで再登場だ。ジャバ・ザ・ハット亡き後の暗黒街を牛耳るべく、殺し屋フェネック・シャンド共に因縁の地タトゥイーンに降り立つ。これでボバが“Say My Name”なんて言い出せば、さながらスター・ウォーズ版『ブレイキング・バッド』じゃないか!…と期待を抱いたが、いやいやこれは家族で楽しむディズニープラス配信作品である。良い意味でも悪い意味でも期待を裏切られるシリーズであった。

 『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』でサルラックの大穴に滑落し、あえない最期を遂げたと思われていたボバ・フェットが脱出する。ほとんど口承伝説と化していた場面に往年のファンは興奮を禁じえないハズだ。行き倒れた彼を助けたのは砂漠の蛮族タスケン・レイダーだった。かつてアナキン・スカイウォーカーに“怪物”と蔑まされた彼らを本作はタトゥイーンの先住民族として描き直し、その高潔な精神性によってボバ・フェットは改心していく。『スター・ウォーズ』版『DUNE』とも言うべきこのエピソードを、マオリ系テムエラ・モリソン主演で描くことは2020年代のスター・ウォーズとして大きな意義があるだろう。この意外性ある第2話は本シリーズのベスト回の1つと言える。監督のステフ・グリーンは『ジ・アメリカン』や『ウォッチメン』にも参加してきた俊英だ

 しかし、現在と過去を何度も往復しながら進む本作のストーリーテリングは駆動力に乏しく、ステフ・グリーンに対してロバート・ロドリゲスという明らかに資質が異なる監督によってシリーズ全体の演出はちぐはぐな印象だ。ロドリゲスはおそらくコロナ禍においても持ち前の低予算製作術で難なく乗り切ったのだろうが、アクションシーンは子供だましもいい所である(最終回第7話はモブに全く演出が付いていない)。シリーズ後半にはコーリー・バートンが声をあてた素晴らしい悪役キャド・ベインが存在感を放つだけに、ショーランナーのジョン・ファヴローとデイヴ・フィローニは彼をもっと早く登場させてでもシリーズ全体のバランスを整えるべきだった。

 そして何より面食らってしまったのは、シリーズ後半2エピソードに渡ってボバ・フェットが姿を見せない事だ。代わって登場するのはなんとマンドーとベイビーヨーダである。『マンダロリアン』シーズン2の素晴らしいフィナーレであった彼らの別れはあっさりと撤回され、愛機レイザー・クレストに代わってナブースターファイターカスタムに乗り換える第5話は(ボバ・フェットには気の毒だが)、シリーズベストの傑作回である。旧型機を改造し、そのスピードと性能に魅せられるこのエピソードでは“宇宙船とは車である”というスター・ウォーズの原点とも言うべきスピリットが描かれる。それをジョージ・ルーカスの出世作『アメリカン・グラフィティ』に出演したロン・ハワードの娘、ブライス・ダラス・ハワードが演出していることはスター・ウォーズ史において重要なモーメントであると言っても過言ではないだろう。父を彷彿とさせる職人技で着々と監督作を積み重ねてきた娘ブライスが、ついに傑作回をモノにした。そして『マンダロリアン』から始まる“新生”スター・ウォーズにおいて、やはり華形はマンダロリアンなのである。

 続く第6話ではさらにルーク・スカイウォーカー、アソーカ・タノまで登場し、再びボバ・フェットはサルラックの大穴に落ちたかのような存在感のなさだ。ここで明らかとなるのが“ボバ・フェットの書”と題された本作が、今後いくつも企画されているTVシリーズ群によって構成される“スター・ウォーズ全書”の1冊に過ぎず、ディズニー帝国による超大なSWユニバース構想が姿を現したことだろう。ボバがその露払いとされ、タトゥイーンの安定を願う“大名”(ほんとにダイミョウと発音している)を目指すこの物語は果たして僕らが見たかったモノなのかと疑問は尽きないが、少なくとも“『マンダロリアン』シーズン2.5”に僕は興奮してしまったのである。
 

『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』21・米
監督 ロバート・ロドリゲス、ブライス・ダラス・ハワード、ステフ・グリーン他
出演 テムエラ・モリソン、ミンナ・ウェン、ペドロ・パスカル、ティモシー・オリファント、ロザリオ・ドーソン

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