長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ザ・ホーンティング・オブ・ブライマナー』

2020-11-18 | 海外ドラマ(ほ)
※このレビューは物語の結末に触れています※

 マイク・フラナガン監督によるアンソロジーシリーズの第2弾は、ヘンリー・ジェームズの中編『ねじの回転』を原作に物語の舞台を1980年代へと移している。ある夜に集った人々が語り合う怪談話は、主人公ダニーが人里離れた邸宅“ブライ”にやって来る所から始まる。彼女はここに住む10歳の少年マイルズと、8歳の妹フローラの家庭教師として雇われたのだ。そこで彼女は想像を絶する恐怖に直面する…と基本プロットはそのままに、今回も登場人物それぞれのドラマが掘り下げられ、胸に迫る怪談へとアレンジされている。

 大傑作だった前作『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』の完成度を期待したファンにはちょっと肩透かしかも知れない。恐怖描写は控え目で、ホラーとしてはそんなに怖くない。1話ずつ登場人物を描いていく構成も全く同じでやや新味に乏しい。何より昼間シーンの淡い映像はTVで見るにはやけに眩しく、何とも“TVっぽく”て安いのだ。

 それでも一度、夜の帳が降りるとブライの屋敷には禍々しい空気が充満し始める。何かが見える気がするショットの奇妙な余白を、怖い物見たさで凝視してしまう(前作同様、イースターエッグとして屋敷の各所には事故映像さながらに幽霊が映り込んでいるという)。そして前作から続投するキャスト陣によって、物語はまるで逃れられない呪いのようにも見えてくるのだ。前作で末妹ネルに扮し、注目を集めたヴィクトリア・ペドレッティが今回は堂々の主演を務めており、ダニーの痛ましいまでの哀しみを体現した。今や時代は映画を経由せず、TVシリーズからスターが生まれる時代だ。

 煮え切らない完成度の続く今シーズンもようやく第8話でブレイクスルーが飛び出す。恐怖の根源を解き明かす全編モノクロの演出は『ツイン・ピークスThe Return』第8話、『ウォッチメン』第6話でもおなじみのトレンドだ。淡々と進むモノローグと、悪夢的なモノクロームが呼び水となる恐怖の澱みにはしかし、哀しみが見え隠れする。

 そう、今回もフラナガンは想いの強さがこの世とあの世を繋ぎとめる事を描く。生者が死者を想い、死者もまた現(うつつ)に執着する。ブライという煉獄に人知れず留まり続ける彼らは物悲しく、それでいてブライだけが唯一の居場所、拠り所に見えてしまうのだ。拭い去る事のできないトラウマを抱えたダニーはじめ、ここで働く使用人達はこの世に疲れて互いに肩を寄せ合い、そこには仄かな温かさがある(家政婦ハナに扮したタニア・ミラーが素晴らしい)。

 そして終幕、ようやく自身のセクシャリティに向き合ったダニーが庭師のジェイミー(アメリア・イヴ)と慎ましやかな同棲生活を送る姿は、エイズ禍の80年代という時代設定からも人目を忍んた暮らしだった事が伺える。その姿はブライの屋敷で人知れず現世を想い続けた幽霊たちの姿ともダブるのだ。時代に翻弄され、幸せを得る事のできなかった人々を“供養”する終幕に、並のホラーでは得られない感動を覚えた。


『ザ・ホーンティング・オブ・ブライマナー』20・米
監督 マイク・フラナガン、他
出演 ヴィクトリア・ペドレッティ、オリヴァー・ジャクソン・コーエン、アメリア・イヴ、タニア・ミラー、ラフル・コーリ、タヒラ・シャリフ、ヘンリー・トーマス、ケイト・シーゲル、カーラ・グギノ、アメリー・ビー・スミス、ベンジャミン・エヴァン・エインズワ

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