痛車(いたしゃ)とは漫画・アニメやゲームなどに関連するキャラクターやメーカーのロゴをかたどったステッカーを貼り付けたり、塗装を行った車あるいはそのような改造のことである。近年では軽トールバンやミニバンといった自動車にマフラーなどのパーツを取り付けた改造車のことを指す場合もあるが、一般的には前者を指す。
ネーミングは、2次元キャラクターを描いた車で走り回る「痛い車」という自嘲とデザインのアクが強い事で有名なイタリア車を示す「イタ車」(いたしゃ)にかけたものである。ちなみに同様の改造を施した原付やバイクは「痛単車(いたんしゃ)」と呼ばれ、自転車の場合は「痛チャリ(いたチャリ)」と呼ばれる[1]。
概要
描かれるキャラクターは、いわゆる「2次元」のものが殆どであり多くは自動車で行われているがバイク、自転車で行ったものも存在する。コミックマーケットの最終日などには、国際展示場駅の前や駐車場等に停まっているのを実際に見ることができる。また、日本各地で痛車の集会が開催されている。
ファン活動の一環として行われているものであり、メーカーによる販促活動によるものは含まれない。また、アイドルなど実在の人物をペイントした車や通常のデコトラ・ラッピングバスは痛車の範疇に含まれないことが多い。但し、これには「メーカーの販促活動としか見えない車が存在する」との異論もある。
痛車は大きく以下の2つに分かれる。
「痛車にする」
上記の事柄を行い、いわゆる「オタク」が乗っている車と認識できる位までのレベルで(ウケ狙いも含む)○○風など誤魔化しをしていない見たままの痛車。現在はこちらが大半を占める。
「走り屋風にする」
見た目に「違法競争型暴走族(走り屋)」的なステッカーデザイン等を駆使するもので、この場合は作品名やメーカーロゴ等のステッカーを貼ったり、主にラリーマシンやGTマシンのデザインを模範し、選手名の表記などを好きなキャラクターの名前に置き換えたりする傾向にある。パロディステッカーも痛車のバリエーションの1つにもなっている。2000年前後から出没し始めた痛車達がルーツの1つ(未だ数台現存)。これに比べるとかなり少数派ではあるが、似たものとしてサービスカー風にしたものもある。
世間からの評価は
不可思議な悪趣味と嫌悪する場合
冷やかしの対象となる場合
一般者にまぎれると目立つ、自分はやらないが楽しい
などがあり一様ではないが、世間から冷ややかな目で見られることは避けられない。
最近では「オタクがスポーツカーに乗っているのが許せない」等の理由で、カラーギャングなどによりボディに無数の傷を付けられる、ステッカーを剥がされる等の痛車狩りも起こっている。また、ごく少数存在する後述の「痛バス」についてはベース車両が中古車であった場合、その前に所有していた事業者のイメージが損なわれるとしてバスマニア層からは嫌悪の対象とされている。
装飾の手法
描かれる題材はゲーム(特にアダルトゲーム・ギャルゲー)・漫画・アニメのキャラクターや関連するロゴ、それらの製作会社・ブランド名のロゴなどがある。ボンネット・ドア・リアガラス・リアウイングなどにカッティングステッカーを貼り付けたりエアブラシなどでの塗装を行っているものがほとんどである。すぐに取り外せるようマグネットシール貼付で行う場合もある。マグネット以外でもカッティング、フルカラーをイベント前日に貼りイベント終了後は剥がす例もある。
改造対象となる車種はスポーツカーが多いが、1BOXカー、セダンと多岐にわたる。スポーツコンパクト(スポコン)、ラグジー、VIPカー、バニングといった一般的なカスタムカースタイルとクロスオーバーさせた痛車も現れ始めている。ライトアップなどの一般的なドレスアップがあわせて行われることもある。また1980年代以前に製造された旧車、あるいは外国車をベースにした痛車も存在する。さらには観光バスをベースにした「痛バス」なるものも少数ながら存在する。
キャラ系の作例としては、次のようなものがある。
キャラクターのシルエットをカッティングシートでカットしたもの
初心者をはじめ、現状半分ほどの痛車がこの方法を用いている。
業者などに依頼し、フルカラーステッカーまたはエアブラシアート(塗装)を用いるもの
仕上がりに期待できる反面コストが高くなる。
欠点としては、次のような要素がある。
面積が大きいステッカーを使う場合、どうしても気泡が入り浮いてしまう欠点があるため張り方次第では汚く見えてしまうことがある。
アダルトゲームやギャルゲーなどのキャラクターを書く場合、「同一タイトル(またはシリーズもの)」「同一ブランド(メーカー)」のキャラクターにするなど明確なコンセプト・テーマの統一性を出さないと車のデザインが破綻する恐れがある。
以上の作例は一番典型的であるが「観衆受け」を重視しているため、基本的に車のデザインとしては破綻している痛車が多い。それ以外にも各種のロゴ、デザイン化したキャラクター名などで装飾した場合、一見しただけではそれとわからない場合がある。これは広義の痛車とみなされる場合が多いが、否定する者もいる。結局のところ様式を定義する機関やメディアがないため、自己の判断や周りの意見で痛車か否かを判断しているのが現状である。またアダルトゲームまたは家庭用ゲーム専門のメーカーをスポンサーにしてレース活動をしているチームも存在するが、そのゲームのキャラクターがデザインされた車両も痛車と呼ばれることがあり定義が曖昧である。
内装もオーナーの趣向によりさまざまだが、特に痛車で見られるケースとしてぬいぐるみだけでなくキャラクターやコスプレを模倣した等身大のフィギュア(ラブドール)を乗せる、シートカバーにキャラクターがプリントされた等身大シーツを流用する点が挙げられる。カーオーディオ・AVシステムに力を入れる者も多く、側面や後部の窓に液晶ディスプレイを設置して映像を流しそのためにパソコンを車載する例も見られる。
ナンバープレートも希望ナンバー制度を利用して作品やキャラクター、企業・団体などに関連した語呂合わせの番号で登録することがある。
痛車の歴史
1980年代にはすでにそれに類するものが存在していたが、多くの人に目撃されるようになったのは1990年代後半からである。アニメの音楽CDやぬいぐるみを車内に置いたり、タイトルロゴや作中で登場する組織・団体のエンブレムのステッカーを貼る車が増えだしていた。
一部に伝説や幻とまで言われた車が出現したりもしたが、この頃はあくまで個人レベルでひっそりと実行する者が大半であった。
2000年代になりオタク文化が世間一般に広く知られるようになると、萌えキャラ(大半は萌えアニメやアダルトゲームのヒロイン)をモチーフにしたステッカーや製作会社のロゴをエアブラシで直に塗装したりフルカラーのシールで貼ったりとその内容はより過激さを増す。さらにはインターネットの普及でその存在が多くの人々に知られ、コミュニティも形成された。
痛車人口が増えるにつれ痛車オーナーが集まるチームが次々と結成され、それらのチームに所属する人々も増えていった。その陰で無意味な派閥争いや抗争、暴走行為、国際展示場駅前や秋葉原等での違法駐車、イベント開催中の駐車場での騒動等が発生するなどの問題も発生した。またその存在感の強さから目立ちやすく、マナーの悪さが目立ってしまうため悪印象を抱かれる事も多い。このため団体の結成や所属を敢えて避け、個人レベルでひっそりと愛好する人々も多く存在する。
なお、“チームではなくあくまで共同体”と自称している所もあるが客観的にはチームにしか見えないという奇妙な集まりもある。
近年では走り重視のチューニングを行い、東京オートサロンといった萌えとは関係のない自動車イベントにも見られるようになった[2]ほかBee☆Rといったチューニングショップのデモカーにあしらわれることもある。
2007年夏のコミックマーケットの開催されていた日には、会場の付近で展示イベント「あうとさろーね有明2007夏」が開かれていた。その後同年冬のコミックマーケットの際にも同様のイベントが開催されている。
また、毎年夏に岐阜県可児市ふれあいパーク緑の丘にて「萌車ミーティング」が開催され、2008年は全国から約600台の痛車が集結した。11月8日-11月9日には、「痛車グラフィックス」主催の「痛Gふぇすたinお台場」がフジテレビ本社ビル前にて開催され、約500台の痛車が集まった。中でも注目の車両は、平城遷都1300年祭応援キャラクター『せんとくん』のお兄さんの『鹿坊』(ろくぼう)くんがプロデュースした、Ferrari F430 spiderであった。これは世界中のネットユーザーを中毒にした「ウッーウッーウマウマ(゜∀゜)」とイタ車(イタリア車)の頂点に位置する「フェラーリ」の最強の組み合わせということで、フェラーリを痛車のベースにしたとのことである。
人間は、はまると、こういう事もしてしまうんだなぁと、面倒くさがりの僕。