全訳ハノンピアノ教本で、面白かった曲に、40番と42番とがあります。
40番は半音階。ピアノでいうとすべての鍵盤を順番に鳴らすのを半音階と呼ぶんですね。英語ではクロマティック・スケールとも呼び、隣り合う音の関係が半音で構成されているからそのように呼ぶとWikiの「半音階」ページに書かれていました(それ以上は控えておきます)。それにしてもすべての音を順番に鳴らすとこんなに不気味なことになるんですね。普通の音階よりもはるかに不気味でいかがわしそうな雰囲気なので、どきどきしながら楽しく練習していました。特にこわくて面白かったのが最もスリリングな短3度の下降部。あの間隔ですべての音を上から下へと鳴らすとあんなにこわくなるのだから不思議です。練習するだけで肝試しにもなっており、当時単調になっていた(不良生徒だったので)ピアノの練習に大きな刺激を与えてもらっていました。そしてその後の6度(短も含め)は、かなりおだやかになってしまうのだからさらに不思議に思っていました。あるサイトの解説には、40番は楽譜を見ると気が進まないと思うので指使いをまず覚えるとよいなどと書いてありましたが、私の場合、全くその必要はありませんでした。
そして42番は減7の和音と属7の和音のアルペジオでしたが、特に「ドミ♭ファ♯ラ ドラ♭ファ♯ミ♭」で始まる減7の和音のアルペジオが面白かったです。(参考:Wiki「和音」ページ)あやしげでドラマチックな何かがおこりそうなところが気に入っていました。最初の1小節目は4回、少しずつ大きくしながらも小さめに弾き、2~3小節目の登って行くところにかけて思いっきりクレッシェンドし、3小節目の後半からディミュニエンドさせて弾いたらそれだけで嵐とか魔界とかいうタイトルの曲になりそうな気がしました。もちろんそのような強弱をつけず、すべての音をぎらぎらした感じで弾くのも好きでした。普通の音階やアルペジオよりもかっこいい気がしたので真剣に練習していました。その後の属7は、実は非常に大切な和音なのですが(そして子供のころはそういう事実はまったく分かっていなかったのですが)、打って変わっておだやか。音程の把握や指の練習とともに、減7の和音で荒くれた雰囲気をこの曲でまるく収める働きもあるのでは、とも思っていました。
ところがハノンの42番には私が減よりもスリリングだと思っている、増7の和音が入った曲がないということに気づきました。それを言うなら短7の和音と長7の和音もないではないか、という指摘もあるだろうし、なんでもなさそうな長7の和音もアルペジオにしたら意外とスリリングな気がするのですが、ここでは増に着目します。
「ドミ♭ファ♯ラ ドラ♭ファ♯ミ」 の減があるのだったら
たとえば 「ドミソ♯シ ドシソ♯ミ」 のような増があってもいいはずなんだけど。
近代以降の曲には結構登場しそうな気がするのだけどな~。しかし現実、42番にはありません。増7の和音はあまりにもあやしげでいかがわしげなので子供の教育上あまりよろしくないので入れなかったのでは、と推測しかけており、その推測も頭の中から消えず、そういうことを言わず免疫をつけておくのも大切だと勝手にひとりごちていたのですが、客観的にみると、1900年というハノンさんの没年から、増3の和音や増7の和音の入った曲があまりなかったから、というのが、最も考えられそうな理由のような気がしています。でも、増7の和音も入っていたらさらに面白かっただろうな。ハノン最大のサスペンスコーナーになっていただろうと思うから。ただ、その場合、どのような曲順にするかが新たな悩みの種になるだろうと思われますが。
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