ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

ビューティフルマインド

2018-03-17 09:24:28 | 映画のレビュー
   
実在の天才数学者の物語。 何年も前に劇場公開されていた時、「すごく興味のある題材だわ。ぜひ、観たい}と思っていたのに、その機会がないままだったので、ようやく観ることができてとても嬉しいです。

学者の栄誉として、最高峰と言えるノーベル賞にも輝いた数学者、ジョン・ナッシュ。だが、彼は統合失調症の幻覚に苦しめられ、天才と狂気は紙一重という通説をそのままの人生を生きてきました。
これだけでも、物語としての興味はますのですが、このジョン・ナッシュという人物像がかなり特異。小川洋子さんの小説「博士の愛した数式」でも、ごく短期間しか記憶を保てない元数学者と家政婦の女性との交流が描かれていますが、数学者というのは、世間とは大きなずれを抱えた人物が多いのでしようか。

ナッシュ自身、「僕は単刀直入にしか物が言えないんだ。それに他人と話すというだけで、一苦労なんだ。人が好きでないし、人も僕を嫌う」などと、平然と言ってのけたりします。
だから、若き日在籍した、プリンストン大学でももちろん、一人浮いた変わり者。そんな彼にも、温かな友情を示してくれるルームメートの友人、チャールズがいて、時にはそれが彼の救いともなります。

他の学生のように講義にも出席せず、論文も書かない。しかし、独自の論証を巡らしていきながら、「ゲーム理論」や「リーマン予想」などの輝かしい数式を打ち立てるナッシュ。だが、そんな日々の中、彼は国防省のパーチャーという男から、ロシアからの秘密の暗号を解読してくれと頼まれることになります。
これが、機縁で政府の秘密機関の一員として暗号解読に携さわることに。

その一方、極端な変わり者ナッシュにも、春(?)が訪れて愛する女性アリシアと結婚。かつての友人チャールズが、小さな姪を連れて現れたりもします。

                 

だが、秘密の任務に携わっているという極度の緊張は、ナッシュの神経をすり減らすこととなり、ある日ついに精神病院へ措置入院させられることに。
そして、その時驚愕の事実が、アリシアに伝えられます。
何と、ナッシュが暗号解読の任務に携わっていたというのは、まったくの幻想だったということ。国防省のパーチャーという男も、友人のチャールズも架空の存在で、すべてはナッシュの妄想だったのでした。

ここで、私達観客も唖然としてしまうのですが、妻のアリシアが「そんな……ジョンは、チャールズのことをとってもいい友人だと言っていたわ」というのに、「では、実際にチャールズに会ったことはありますか?」と聞く精神科医。
「プリンストンのルームメートだったと言っていますが、ナッシュ氏は当時、一人部屋だったという記録が残っています」とも。ここまで来れば、怪奇小説とか幽霊談じみてきて、怖いですね。
そして、ナッシュが暗号を解読していたという仕事部屋に行ってみると、アリシアの前にあったのは壁じゅうに貼られた雑誌の切り抜きと、切り抜きのところどころに引かれた線、気味の悪い数学的図形のテープ。

そこから、天才ナッシュの幻覚との闘いが始まるというわけですが、驚かされるのは数学者であるはずのナッシュの、小説家顔負けの想像力。幼い姪を連れて遊びに来る友人や、国防省のパーチャーという男も血肉を備えた人間以上といえる、リアリティーがあるのです。
少年時代からの深い孤独が、こうした妄想を育み、ついにその心を食い破ったという解釈もなされるのですが、やはり救いとなったのは、ノーベル賞受賞という輝かしい栄誉よりも、彼を見放すことのなかったアリシア夫人の愛情だったはず。

実在のナッシュは、晩年に近くなって精神的病から回復したそう。高度な数学理論を構築する緻密な頭脳と、妄想という狂気――人間とは、本当に深いものだと思います。
コメント

追憶

2018-03-17 08:49:39 | 映画のレビュー
  
1973年のアメリカ映画「追憶」が、衛星放送であったので観る。普段は、TVはほとんど見ないし、昼に良い映画が放映されていることは知っていても、その時間は忙しかったりして、なかなか機会はなかったのだけれど、この「追憶」だけは、どうしても見たいという思いが強かった。

 主演は有名な歌手であるバーブラ・ストライサンドに、ハリウッドの代表的2枚目ロバート・レッドフォード。この二人が、出会い、時を経て別れてゆく男女のドラマを演じているわけなのだが、これって当時の言葉で言うならメロドラマというものかも(今は、もちろん死語)。

バーブラ・ストライサンドという人の名前や顔はよく知っていたのだが、その映画を観るのは初めて――そして、思ったのだけれど、とっても魅力的な顔。高い鷲鼻、でも、口元のカーブや目元に何とも言えない愛嬌があり、こういうのが、「ファニーフェイス」というのかな?

レッドフォードも当時36~7歳だったはずで、この頃が最も美しかったころかもしれない。輝くような金髪に、華やかな顔立ち――しかし、確かな知性やどこか素っ気ない感じがするところが、このスターの得難い魅力だと思う。


さて、物語は、大分昔のアイビーリーグのキャンパスから幕が開く。バーブラは、ここでは共産主義者の女子大生に扮していて、その真面目さ・ガムシャラさは、周囲から一人浮いてしまっている。それに対して、レッドフォードは作家志望の、スマートな青年。学内でも、華やかなグループに属していて、バーブラの懸命さをからかったりしている仲間を抑えるでもなく、黙って静観しているといった役どころ。
そして、時が流れ、第二次大戦中、軍に属しているレッドフォード(白い軍服がとてもよく似合っている!)は、バーブラと再会する。学生時代から、密かに彼に憧れていたバーブラは、酔っていた彼を自宅に連れ帰る。この出来事がきっかけで、まったく水と油と言っていいほど、真逆な二人は、真剣に互いを意識しあい、やがて恋愛関係になることに。

しかし、ソフィスティケートされたロバートと、政治問題に熱心なウーマンリブの闘士であるバーブラは、ぶつかり合うことがしょっちゅう。ロバートの要領のいい友人たちも、彼女には気に入らない。
いつか作家になるという希望を、ハリウッドでの脚本家へと進路変更したロバートとバーブラの夫妻は、ハリウッドへと生活の居を移し、結婚することに。だが、時と共に彼らの間のずれは、修復しがたいものになっていた――というのが、おおまかなストーリー。
       
         
 演じる役者が役者なので、この「追憶」という作品も、メロドラマという範疇ではくくれないほど、スケールの大きな深みのある作品に仕上がっている。この映画を観た誰しもそうだと思うのだけど、やはりラストシーンの余韻が深く心に残るのだ。

別れて、何年も何年もたったある日。例によって、政治関係のパンフレットを路上で配っていたバーブラは、車道の向かい側にロバートを見つける。互いに駆け寄る二人だが、そこにはかつて人生を共にした者同士の、静かな親愛が画面から、漂ってきそう。
そして、自分たちの間の娘の近況を話し合った後、再びそれぞれの道をゆく二人だが、その時バーブラが、レッドフォードの頬に手を触れるシーンが、とってもいい!

若い頃のレッドフォードの作品が、もっと見たくなった。
   
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