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❸マント・ソデ群落の設計・施工・育成管理
マント群落 ソデ群落とは、樹林の林縁部に成
立する植物群落を指す。樹林に述続するマント
群落は有刺低木やアカメガシワやヌルデなどの
先駆性植物、フジ類やクズなどのツル植物など
からなる。この外縁にススキなどの車本類を中
心とするソデ群落が成立する。村林内の気象条
件を安定させ哺乳類などの侵入、機乱を防ぐ役
割を持つ。
ヌルデ
1)初期の設計施工
【時期】植物が新芽の展開を終える5月頃
【施工】南木層、亜高木層の間伐と搬出。疎開
率40~50%。
ミツバ
●存置育成植物のテープ、ピンポール、杭など
によるマーキング。
●育成植物以外の刈取り、搬出。
●高木類や他の競合種によって被圧を受け、通
常、樹形が扁形している。このため、存置育
成する低木類には整枝剪定を実施。
留意事項①:表土中の埋土種子が発芽し、新た
な種類が出現する可能性がある。
留意事項②:自生個体は低木や高茎草本に被圧
されて開花せず、小さな個体になっていること
が多い。茎葉だけの未開花個体を見分ける必要
がある。初期段階では植物に対する同定力を持
つ専門家の指導が求められる。
フキ
2)育成タイブ
●山菜・野生果樹の育成
ミツバ、フキ、ワラビ、ゼンマイ、ウド、ヤマ
ノイモ、タラノキ、サンショウ、アケビなどの
山菜、野生果樹。
●野生花木 実のなる木の育成
ツツジやガマズミ、サクラ類、ヤマボウシなど
の野生花木、クリやトチノキ、オニグルミなど
の野生果樹を選択的に刈り残し育成する。
●野生草花の育成
キキヨウ、リンドウ、オカトラノオ、オトコエ
シ、オヤマポクチなどの野生草花を選択的に刈
り残し育成する。
ワラビ
オヤマポクチ
3)育成管理施工
①選択的刈払い
育成植物以外の刈取りと搬出。初夏と冬季の年
2回実施。冬季には、冬枯れした草木育成種も
刈取り搬出する。種子がある場合は取り蒔きを
検討する。
②日照条件の調整
林地の高木層、亜高木層の樹冠が林縁に展開し、
日照条件が悪化した場合、各層の立木に対し枝
打ちを加え、疎開率を40~50%にして太陽光の
入射初期の状態に戻す。
(5)田んぼの設計・施工と育成管理
❶ 放棄水田の構造修復
水田は溜池や用排水の小川、石垣や上手、畦、
農道などからなる。放置水田では砂泥や落葉落
枝が推積するとヨシやセイタカアワダチソウが
密生化するほか、年数がたつと樹林に遷移する。
このような条件ではドジョウやカエルなどの水
生生物は生息できない。
ヨシ
1)荒廃した水田跡の修復設計
初期施工では、散在した倒木などを除去し、密
生化した草木やササ類を刈取り、除根搬出する。
水位を回復するため、堆積砂泥を掘りあげ、耕
上の下にある遮水層(粘土層)をたたき直し復旧
する。
2)荒廃した水田跡の修復施工
生物の活動が停止する晩秋~冬季に作業を実施
する。現地の水生生物や希少種は、事前に採取
し一時保管し、竣工後、適した環境に放免する。
これは土手や小川、溜池などでも同じである。
密生した土手植生を刈取る。掘りあげた荒廃水
田の砂泥とは自然分解する土のう袋に詰め土手
修復などに利用。
3)水田跡の修復断面の構造
水田の断面は、水漏れを抑えるための進水層、
イネが根を張るための耕土、イネの成長に必要
な水がサンドイッチ状にあり、耕上の厚さと水
の深さは、それぞれ15~20cm程度である。畦と
水田の継ぎ目や畦からの漏水を抑制するため、
水田の遮水層を畦の上まで延長し、畦の泥塗り
を繰り返し行うことも大切である。
4)修復時における導水用小川の補強・補
修モデル
水田に水を引く小川では、堆積した砂泥を掘り
あげ、もとあった水位に戻す。落斜面や傾斜が
急な畦は補修が容易なそだ柵や木柵で固定する。
5)修復時における導水路の補強・修復モ
デル
沢水を直接引く水田では水を温める導水路を長
くする。水みちを掘り土のうを積んで流路を固
定できる。出水で崩壊した沢本の取水口は、木
板や土のうを組み合わせ復旧する。取水に要す
る作業には、水利権者の承諾が必要である。
6)圃場整備が済んだ水田における排水路と
魚介類のネットワーク回復
大きな落差で魚介類が排水側溝と水田とのあい
だを行き来できない場合は、簡易には魚道の設
置で対策する。
7)荒廃した水田跡の修復における1年目の
作業設計
春から秋は現地と周辺の事前調査を行い、これ
をもとに多くの生物が活動を停止する晩秋から
冬季に基盤修復を実施。
❷ 畦・土手の修復と育成
刈払いを長年中断した場所ではススキやササ類
が繁茂し、樹林化していることもある。キキョ
ウやスズサイコなどの野草が衰弱し混生葉や埋
上種子で残存していることも多い。初期施工と
育成管理によって野生草花が混生するチガヤや
ススキ草地を再生する。育成を要する希少種植
物や野生草花については、当初は草刈り時に刈
り残して育成することも検討する。
スズサイコ
1)荒廃した畦・土手の修復設計断面
土手では年2回程度の刈取りでススキ・チガヤ
草地を誘導する。残存した株や埋土種子からワ
レモコウなどの野草が再生し、革原性のチョウ
やバッタも定着する。
2)石垣を伴う土手・畦の修復設計断面
樹落部については、現地に残存した石をより分
け、石の面(つら)を合わせ組み上げる。表層の
石を支え畦の浸透水を排水する裏込め石、表層
の玉石や割栗石の順で組む。
【注釈】
作業を進めていくうちに、懐かしい感慨を伴い
ながら頭だけでなく、稲作と灌漑土木、土木建
設、造園、工場建設、住宅造成と個々にあった
ものが次々繋がっていくような納得を腑に落と
していく貴重な経験を得る。
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