殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

同窓会

2010年01月09日 15時51分59秒 | みりこんぐらし
「初夢で、県会議員に当選した夢を見た…」

この正月、夫は私にそう打ち明けた。


県会!中途半端な!

どうせ夢なら、総裁選とか衆院選にせい!

…と思うが、そんなことは言わない。

「すごい!

 何にしても、当選ってのは気分いいよね」

すこぶる満足そうな夫。


「政治絡みの夢を見たのは初めて。

 なんで見たんだろう」

潜在意識なんてのは、私には興味が無い。

しかし聞かれたからには、日頃思っていることを答える。

     「…父さんは、本当は誰よりも野心があるのよ」

「そうかな?そんなことは無いと思うけど」

     「誰よりも成功を望んで、誰よりも賞賛を浴びたい…

      野心と現実とのギャップが大きすぎて

      あらぬ方面でデキる男を演じる…それがキミだよ」


初夢を見る日の夕方、夫は中学時代の同窓会に出席したのだった。

今まで、夫はこの類のものに出席することはなかった。

これが初めて。

正月はたいていデートに忙しく

数年に一度ある同窓会どころではなかったのだ。


それに、私が許可しなかった。

たいていのことは黙認するが

同窓会に関してだけは、いい顔をしなかったのだ。

しかし今回から解禁した。

相手も分別のつく年ごろだろうし、もう妊娠しないからである。

夫の同級生なら、アガってるもんね。


同級生との不倫そのものが問題なのではない。

それなら以前にあった。

取引先の事務員が同級生で、しばらくいい感じだった。


その時はたまたま自然消滅だったものの

毎回こうとは限らない。

なにしろ、後のもめぶりに関しては定評のある夫…

相手の人数が一人、また一人と増えたら

本人同士だけでなく、他の同級生とも気まずくなる。


同級生というのは生涯続く関係だ。

特にここらへんは、親や本人の葬式で

同窓会が大きな役割りを果たす。


弔問客の接待や駐車場の案内などの雑用は同級生がやるし

祭壇の横には、同窓会の会旗を立てるならわしだ。

同級生に不義理をしたら、葬式もまともに出せない。

無法地帯の我が家でも、ここだけは…という厳しい掟があった。


どんな小さなチャンスも逃さない夫である。

それは下戸だからこそ使える手口…

「送ってあげる」から始まることが多い。

同級生とどうにかなってもめるくらいなら

他の女とデートしてくれたほうが、よっぽどマシであった。


夫は初めて出席した同窓会で、初めて自分の半生を考えたらしい。

夫の年齢になると、管理職に付いている男性も多い。

遠い土地で出世している者など

故郷の友が懐かしいのと、おのれの立派になった姿を見せたいのとで

同窓会と聞けば這ってでも来る。


その出世組からことごとく

「どう?景気は」

と聞かれ、嫌気がさしたという。

「人に景気を聞いてくるヤツは、結局自分のことを話したいヤツなんだよな」

景気なんて、いいわけないだろうが…

ジャンパーとサンダルで行ってんのに、見りゃあわかるだろうよ…

自分よりみすぼらしそうなのを選んでは聞きやがる…

夫は苦笑しながら話し、私は爆笑した。


だからおしゃれして行けと言ったのに

「町内の居酒屋だし、幼なじみばっかりだからこれでいい、いい」

と着の身着のまま行くからじゃ。


しかしなぁ…と夫は言う。

「みんな一生懸命頑張ったんだよな…。

 オレ、いろんなこと考えちまったわ」


そうよ…女の尻ばっかり追ってたから

じじいになってもうだつが上がらないのよ…と言いたいが、我慢。

「いいんじゃない?父さんも父さんなりに頑張ったと思うよ」


その晩、議員当選の夢を見て

コンプレックスを帳消しにしたと思われる。

なんと便利に出来ていることよ。


「次の同窓会も出ていい?

 おまえが同級生、同級生と言う気持ちがわかったよ」

「いいよ。もうずっと出ていいよ」

次は3年後だ。

生きているかどうかもわかりゃしない。
コメント (50)
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