ダイちゃんの話によると、この新興宗教には
最初、奥さんが入信した。
それを苦々しく思っていたが
会社の罪事件の際、気が弱って集まりに参加してみた。
すると問題がたちどころに解決し
以来、子供達も含めた家族ぐるみで
熱心な信者になったそうだ。
「黙っているつもりだったけど
一緒に同じ道を歩みたい気持ちが強くなった」
とおっしゃる。
ダイちゃんの本当の姿を知った我々は
とりあえず当惑していた。
しかしこれまで抱いていた疑問が、一気に解消したのも確かだ。
墓参りや宗教の話に食いつく…
我々と知り合う直前、軽い脳梗塞になったそうだが
薬を飲むのを見たことがない…
電話した時、どこか広いホールのような場所に居るらしく
彼の声にエコーがかかることがたびたびある…
そんな疑問だ。
最大の疑問は、愚痴や悪口を一切言わないところや
都合や忙しさで機嫌や口調が変わらないところで
その紳士的な態度は、我々の尊敬を集めていた。
だがこれらは、そうしようと決めても
なかなかできるものではない。
ダイちゃんに元々備わる人格なのか。
それともバックに何か理由が隠されているのか。
家族で幾度となく推理と議論を重ね
最終的にはバック説に落ち着くのを繰り返していた。
なるほど、バックはこれだったのか。
食事に行った時なんか、段差でスッと手を添えてくれたり
ドアを開けてくれたりするのは
レディファーストなんかじゃなかったのねっ!
宗教活動で大人数が集まった時、仲間の老人にするのと同じ
イタワリだったのねっ!
とはいえ、我々にも打算はある。
信仰の絆は、強くて深いものだ。
ハイと従えば、次期取締役が決まっているダイちゃんの
より一層手厚い保護の元、安楽な余生が送れよう。
共に働く子供達の未来も安泰である。
だが、信仰は我々一家に一番向いてない行為である。
群れる、集まる、話を聞く…
この三拍子が揃っているじゃないか。
しかも徒党を組んで歩むその道は
暫定、正しい道と相場は決まっている。
夫に正しい道なんか歩かせたら、死んでしまうぞ。
無理…嫌…カンベンして…
家族4人、顔を見合わせてアイコンタクトを取っているところへ
「こんにちは~!」と友人のヤエさん登場。
その朝、ちらし寿司を作ると連絡があったので
できあがったら会社に届けてと頼んでいたのだ。
天の助け…私はダイちゃんにヤエさんを紹介した。
このままダイちゃんが帰る4時まで引き止めて
さっきの宗教話をうやむやにするつもり。
その時である。
ヤエさんは放置していた胆石が肥大して
癌に移行する可能性があると病院で言われ
落ち込んでいると嘆いた。
姑さんの介護で、手術を先延ばしにしていた口惜しさに
涙まで浮かべているではないか。
こんな時に寿司なんか作らなくていいようなもんだが
作っちゃうのがヤエさんなのである。
ヤエさんの話を聞いたダイちゃん、燃える。
我々の戸惑いをよそに、2人は宗教話で盛り上がった。
お腹の石が消えるとまで言われたヤエさんは
「ぜひお話が聞きたい!」と言い出し
その週末、教団の施設に行くことを決めてしまった。
「1人じゃかわいそうだから、君達が連れて来てあげてね。
詳しいことはまた連絡するから」
ダイちゃんはそう言い残して帰って行った。
かわいそうも何も、ヤエさんの実家は問題の宗教施設の先にあり
その辺りの地理には詳しい。
愛車をかっ飛ばしてどこへでも行くアクティブな女性なのだ。
しかし変なモンだったら、ヤエさんを止めないといけない。
見届けなくては…やはり我々は行くしかないのだった。
「母さんがヤエさんを紹介なんかするからだ」
家に帰って、男どもに責められる私。
「案ずるな。
いざとなったらヤエさんをあてがって、うちらは逃げるんじゃ!」
苦しまぎれにうそぶく、卑怯者の私であった。
《続く》
最初、奥さんが入信した。
それを苦々しく思っていたが
会社の罪事件の際、気が弱って集まりに参加してみた。
すると問題がたちどころに解決し
以来、子供達も含めた家族ぐるみで
熱心な信者になったそうだ。
「黙っているつもりだったけど
一緒に同じ道を歩みたい気持ちが強くなった」
とおっしゃる。
ダイちゃんの本当の姿を知った我々は
とりあえず当惑していた。
しかしこれまで抱いていた疑問が、一気に解消したのも確かだ。
墓参りや宗教の話に食いつく…
我々と知り合う直前、軽い脳梗塞になったそうだが
薬を飲むのを見たことがない…
電話した時、どこか広いホールのような場所に居るらしく
彼の声にエコーがかかることがたびたびある…
そんな疑問だ。
最大の疑問は、愚痴や悪口を一切言わないところや
都合や忙しさで機嫌や口調が変わらないところで
その紳士的な態度は、我々の尊敬を集めていた。
だがこれらは、そうしようと決めても
なかなかできるものではない。
ダイちゃんに元々備わる人格なのか。
それともバックに何か理由が隠されているのか。
家族で幾度となく推理と議論を重ね
最終的にはバック説に落ち着くのを繰り返していた。
なるほど、バックはこれだったのか。
食事に行った時なんか、段差でスッと手を添えてくれたり
ドアを開けてくれたりするのは
レディファーストなんかじゃなかったのねっ!
宗教活動で大人数が集まった時、仲間の老人にするのと同じ
イタワリだったのねっ!
とはいえ、我々にも打算はある。
信仰の絆は、強くて深いものだ。
ハイと従えば、次期取締役が決まっているダイちゃんの
より一層手厚い保護の元、安楽な余生が送れよう。
共に働く子供達の未来も安泰である。
だが、信仰は我々一家に一番向いてない行為である。
群れる、集まる、話を聞く…
この三拍子が揃っているじゃないか。
しかも徒党を組んで歩むその道は
暫定、正しい道と相場は決まっている。
夫に正しい道なんか歩かせたら、死んでしまうぞ。
無理…嫌…カンベンして…
家族4人、顔を見合わせてアイコンタクトを取っているところへ
「こんにちは~!」と友人のヤエさん登場。
その朝、ちらし寿司を作ると連絡があったので
できあがったら会社に届けてと頼んでいたのだ。
天の助け…私はダイちゃんにヤエさんを紹介した。
このままダイちゃんが帰る4時まで引き止めて
さっきの宗教話をうやむやにするつもり。
その時である。
ヤエさんは放置していた胆石が肥大して
癌に移行する可能性があると病院で言われ
落ち込んでいると嘆いた。
姑さんの介護で、手術を先延ばしにしていた口惜しさに
涙まで浮かべているではないか。
こんな時に寿司なんか作らなくていいようなもんだが
作っちゃうのがヤエさんなのである。
ヤエさんの話を聞いたダイちゃん、燃える。
我々の戸惑いをよそに、2人は宗教話で盛り上がった。
お腹の石が消えるとまで言われたヤエさんは
「ぜひお話が聞きたい!」と言い出し
その週末、教団の施設に行くことを決めてしまった。
「1人じゃかわいそうだから、君達が連れて来てあげてね。
詳しいことはまた連絡するから」
ダイちゃんはそう言い残して帰って行った。
かわいそうも何も、ヤエさんの実家は問題の宗教施設の先にあり
その辺りの地理には詳しい。
愛車をかっ飛ばしてどこへでも行くアクティブな女性なのだ。
しかし変なモンだったら、ヤエさんを止めないといけない。
見届けなくては…やはり我々は行くしかないのだった。
「母さんがヤエさんを紹介なんかするからだ」
家に帰って、男どもに責められる私。
「案ずるな。
いざとなったらヤエさんをあてがって、うちらは逃げるんじゃ!」
苦しまぎれにうそぶく、卑怯者の私であった。
《続く》