ゆすられている現実から目をそむけ
島の学校行きに意識を集中させるナミ様母娘に
再度の説得を試みることにした私だった。
似たような母娘はうちにも一組いるが
こういうのは、頭ごなしに否定したらダメなんじゃ。
「つらかったね、よく頑張ったね。
あの島はいい所よ。
うちの姑の出身地だから、よく知ってるの。
私が連れて行ってあげる。
帰りは魚介の美味しい店へご案内するわ」
「本当?!」
食いついたところで、少しずつ核心に寄っていく。
当初「絶対に接触していない」と主張していたママの発言は
「よく覚えていない」に変化してきたため
反撃や復讐でなく、平和的解決に持ち込むしかないのだ。
あんたらは、ゆすられている…
金を出せとはっきり言ったら恐喝になるから、誠意と言うのだ…
頼みに行ったって、国立の学校が遅刻を取り消すわけがない…
そしたら次は金の話しかなくなる…
これ以上、彼らの言いなりになってはいけない…
ゴネれば土下座やお金が出てくるのに
青少年が味をしめたら、この先また犠牲者が出る…
これらを経由して、やっと「だから保険を使え」に到達。
それで決着がつかないのも、よ~く知っている。
「一応行ってみて、私なりに最大の努力をして
それでダメだったら…ねえ」
2人で顔を見合わせて、うなづき合っている。
ナミ様も警察に行きたくないもんだから、離島行きを推奨。
2人は島の学校で遅刻の取り消しを勝ち取り
それをミヤゲに解決できると思っているのだ。
あり得ないとはいえ、万一遅刻が取り消されたとしても
今度は「受けた心の傷」というやつに対して
誠意を要求するプログラムが待っていることなど
想像だにしていない。
娘からの強い洗脳を解くには、娘の次に強いアイテムが必要だ。
男である。
うちにも一人いるが、このような母親は
他人の男性の言うことだったら案外コロリと従うのだ。
男なら誰でもいいというわけではない。
まず口が固く、法律に明るい知恵者でなければならない。
小声で話しても内容を瞬時に理解できる聴力と勘の良さ
他人から相談を持ちかけられても舞い上がらない
世慣れた性格も欲しい。
母娘が納得のいく外見も必要だ。
ナンボ立派なことを言うてくれても、ボロボロ爺さんじゃあ
説得力が半減する。
事務所を見回し、適任者を探すと
難しい条件をクリアできる男が一人だけいた。
共に開票結果を待っていたカリスマ美容師、I氏である。
私は彼に頭髪を任せているが、ついでに頭の中身の方も
時々おすがりしている。
I氏にかいつまんで説明すると、即座に回答。
「向こうのやっていることは、すでに強要という犯罪。
学校に行ってはいけない。
保険を使いなさい、その方が安くつく。
修理代を支払ってないなら、まだ間に合うから事故証明を取りなさい」
私はナミ様母娘の所へ、とって返した。
「ほら!あの男性もそう言ってる!」
効果てきめん、2人は保険を使うことを承諾したのだった。
「いいね?明日、フェリーに乗るんじゃないよ?
警察へ行くんだよ?わかったね?」
「はい…」
しかし2人は生返事。
「付いて行こうか?」
「いやいや、そんなことまでしてもらうわけには…
私達だけで大丈夫」
これまでとはうって変わり、元気よく断るママ。
保険を使うことには従うが、やっぱり島へは行くつもりらしい。
お年寄りって、周りのみんなが年下なので
自分が何か言えば通るのではないかと
変な自信を持っているフシがある。
事故の親子に通用しなかったんだから
あきらめればいいようなもんだが
かえって「今度こそは」という思いが強くなり
学校に舞台を移して、果敢なトライを試みようとする。
周囲はそれを深追いや執拗と呼ぶが
本人にしてみれば、どこかで自信を取り戻さないと
不安で仕方がないのだ。
このようなおばあちゃん、うちにも一人いる。
行って、玉砕するがいい。
自分の考えが甘かったと思い知るのは、悪いことではない。
島のことにはもう触れず、警察での打ち合わせをする。
「かくかくしかじかで、脅されて困っているんです…
はい、言ってみて」
「脅されて困っているんです」
2人は復唱する。
「土下座を強要されて、誠意を見せろと言われました…
今晩も来いと言われていますが、怖いので行きたくありません…
保険を使いたいので、事故証明を出してください…
はい、言って」
「土下座を強要されて…」
「“強要”と“怖い”は絶対忘れずに。
いいね?強がったらだめよ。
恐喝におののく弱者でよろしく。
困ったら、すぐ電話して」
「わかりました!」
翌日、どうなったかを聞こうかとも思ったが
こっそり島へ行っているはずなので気まずかろう。
島で玉砕後、こちらへ戻って警察では忙しいだろうから
中一日置いて、火曜日になってからママに電話することにした。
島の学校行きに意識を集中させるナミ様母娘に
再度の説得を試みることにした私だった。
似たような母娘はうちにも一組いるが
こういうのは、頭ごなしに否定したらダメなんじゃ。
「つらかったね、よく頑張ったね。
あの島はいい所よ。
うちの姑の出身地だから、よく知ってるの。
私が連れて行ってあげる。
帰りは魚介の美味しい店へご案内するわ」
「本当?!」
食いついたところで、少しずつ核心に寄っていく。
当初「絶対に接触していない」と主張していたママの発言は
「よく覚えていない」に変化してきたため
反撃や復讐でなく、平和的解決に持ち込むしかないのだ。
あんたらは、ゆすられている…
金を出せとはっきり言ったら恐喝になるから、誠意と言うのだ…
頼みに行ったって、国立の学校が遅刻を取り消すわけがない…
そしたら次は金の話しかなくなる…
これ以上、彼らの言いなりになってはいけない…
ゴネれば土下座やお金が出てくるのに
青少年が味をしめたら、この先また犠牲者が出る…
これらを経由して、やっと「だから保険を使え」に到達。
それで決着がつかないのも、よ~く知っている。
「一応行ってみて、私なりに最大の努力をして
それでダメだったら…ねえ」
2人で顔を見合わせて、うなづき合っている。
ナミ様も警察に行きたくないもんだから、離島行きを推奨。
2人は島の学校で遅刻の取り消しを勝ち取り
それをミヤゲに解決できると思っているのだ。
あり得ないとはいえ、万一遅刻が取り消されたとしても
今度は「受けた心の傷」というやつに対して
誠意を要求するプログラムが待っていることなど
想像だにしていない。
娘からの強い洗脳を解くには、娘の次に強いアイテムが必要だ。
男である。
うちにも一人いるが、このような母親は
他人の男性の言うことだったら案外コロリと従うのだ。
男なら誰でもいいというわけではない。
まず口が固く、法律に明るい知恵者でなければならない。
小声で話しても内容を瞬時に理解できる聴力と勘の良さ
他人から相談を持ちかけられても舞い上がらない
世慣れた性格も欲しい。
母娘が納得のいく外見も必要だ。
ナンボ立派なことを言うてくれても、ボロボロ爺さんじゃあ
説得力が半減する。
事務所を見回し、適任者を探すと
難しい条件をクリアできる男が一人だけいた。
共に開票結果を待っていたカリスマ美容師、I氏である。
私は彼に頭髪を任せているが、ついでに頭の中身の方も
時々おすがりしている。
I氏にかいつまんで説明すると、即座に回答。
「向こうのやっていることは、すでに強要という犯罪。
学校に行ってはいけない。
保険を使いなさい、その方が安くつく。
修理代を支払ってないなら、まだ間に合うから事故証明を取りなさい」
私はナミ様母娘の所へ、とって返した。
「ほら!あの男性もそう言ってる!」
効果てきめん、2人は保険を使うことを承諾したのだった。
「いいね?明日、フェリーに乗るんじゃないよ?
警察へ行くんだよ?わかったね?」
「はい…」
しかし2人は生返事。
「付いて行こうか?」
「いやいや、そんなことまでしてもらうわけには…
私達だけで大丈夫」
これまでとはうって変わり、元気よく断るママ。
保険を使うことには従うが、やっぱり島へは行くつもりらしい。
お年寄りって、周りのみんなが年下なので
自分が何か言えば通るのではないかと
変な自信を持っているフシがある。
事故の親子に通用しなかったんだから
あきらめればいいようなもんだが
かえって「今度こそは」という思いが強くなり
学校に舞台を移して、果敢なトライを試みようとする。
周囲はそれを深追いや執拗と呼ぶが
本人にしてみれば、どこかで自信を取り戻さないと
不安で仕方がないのだ。
このようなおばあちゃん、うちにも一人いる。
行って、玉砕するがいい。
自分の考えが甘かったと思い知るのは、悪いことではない。
島のことにはもう触れず、警察での打ち合わせをする。
「かくかくしかじかで、脅されて困っているんです…
はい、言ってみて」
「脅されて困っているんです」
2人は復唱する。
「土下座を強要されて、誠意を見せろと言われました…
今晩も来いと言われていますが、怖いので行きたくありません…
保険を使いたいので、事故証明を出してください…
はい、言って」
「土下座を強要されて…」
「“強要”と“怖い”は絶対忘れずに。
いいね?強がったらだめよ。
恐喝におののく弱者でよろしく。
困ったら、すぐ電話して」
「わかりました!」
翌日、どうなったかを聞こうかとも思ったが
こっそり島へ行っているはずなので気まずかろう。
島で玉砕後、こちらへ戻って警察では忙しいだろうから
中一日置いて、火曜日になってからママに電話することにした。