私がウグイスの仕事を始めたのは、35才の時。
スタートが遅いため、ウグイス人生は加齢との戦いで
選挙を一回やると体重が5キロは減った。
そのままでいれば、さぞ痩せ細っただろうが
終わったらすぐ元通りに膨らむのは、やはり中年。
一方、美人はどうだ。
こちとらアブラ身を削っているというのに、最終日まで余裕の美貌を保っている。
美人の踏み台になるのが自分の役割だとわかってはいるが
もしや私が美しければ、どういうことになるのだろう…
もうちょっと楽ができるのではなかろうか…
しゃべれる美鳥を目指すことにしたのは、不純な動機からだった。
美鳥をもくろむ私は、まず美人ウグイスを観察。
美人は、口で自己主張しなくても
誰かがどうにかしてくれる半生を送ってきたので
声を張る習慣が無く、語彙が少ない。
気の利く人はあまりおらず、動作がおっとりしている。
これが普通の人であれば「トロい」と表現されるだろうが
美人だと「優雅」ということになる。
疲れないはずである。
しかし苦労もあるようだ。
変なオヤジに馴れ馴れしくされたり
関わりを持ちたくて、ツンデレをもくろむサドオヤジの対処はウザそう。
こういうオヤジ、どこの選挙事務所にも必ずいる。
美人は慣れているらしいが、私から見るとかなり大変そうだ。
そもそも美人は選択肢が多いので
じっくり観察して何かを得る前に、すぐどこかへ就職したり
結婚していなくなる。
結局のところ、私とは遺伝子の段階から違うということぐらいしか
わからなかった。
他にたいした収穫も無いまま、数年が経過。
そのうち、楽がしたいだの、美鳥計画だの
のん気なことを言ってる場合じゃなくなった。
さえずる舞台が無くなったのだ。
きっかけは、今は亡き義父アツシ。
彼は大変な選挙好きだった。
俗に言う参謀屋、つまり選挙ブローカーの友達が何人かいて
その人達と一緒に朝から晩まで選挙事務所に詰めるのが趣味。
アツシは、私がウグイスをやるのを嫌った。
えらそうに人前でチャラチャラするな…
そんな暇があるなら、自分達にもっと尽くせ…
というのが彼の主張である。
私もアツシの関わる選挙を避けたため、活動の場は自然消滅した。
敵味方に分かれるのもイヤだし、同じ候補はもっとイヤ。
何が悲しゅうて、外に出てまで大嫌いな舅と関わりを持たにゃならん。
しかも家事をしいしい選挙に駆けつけるのは
かなりしんどいと身にしみていたので、それでよかった。
ここで初めてわかったことがある。
美人ウグイスが美人のままでいられる最も大きな理由は
父ちゃんや子供のために、せっせとご飯を作らなくていい環境にいるということだ。
独身か、子供がいないか、または元気な母親が全面協力している。
遺伝子も違うけど、環境もはなから違っていたのである。
私のウグイス人生は、これで終わるはずだった。
しかしそこへ、世代交代の波が到来。
アツシの糖尿病が悪化して、選挙事務所に詰めるのが辛くなってきたのだ。
立候補者も変化してきた。
口うるさいご意見番にかしづき、もの入りなブローカーを使う
クラシックな選挙祭でなく
しがらみ抜きのコンパクトな選挙を目指す若手がチラホラ出始めた。
私はコンパクト派の候補から、直接依頼されるようになった。
誰かを介してウグイスを紹介してもらうと
そこからしがらみが生まれるからだ。
向こうは初めてで、何もわかっちゃいないので
私の乏しい経験が頼り。
加えてアツシの息子の嫁というプロフィールが、私にゲタを履かせた。
選挙界では有名な、あのアツシさんの家族だから
何でも知っているに違いない…
嫁というのは誰でも可愛いもので、その嫁を出すんだから
アツシさんも陰で応援してくれているに違いない…
実態を知らない人々からそう思い込まれた私は、事務所で尊重された。
「違う」と言ったら「謙虚」と言われ
「逆だ」と言ったら「謙遜」と言われ、非常に困ったが
うちの嫁舅問題を他人に説明するわけにはいかない。
放置していたら、参謀の一味という身の上になっていた。
楽がしたいどころか、以前よりずっと忙しい。
「知らんぞ!」
私は叫びたかったが、たまたま選挙は他の人々の尽力で当選した。
感謝されて、穴があったら入りたかった。
父親の虎の威を借りる、我が夫やその姉を軽蔑してきたが
私も同じ穴のムジナであった。
活動の場を失う原因になったのもアツシだが
美のゲタが無い私に、風評というゲタを履かせてくれたのも
彼だったというわけ。
ともあれ、自分はまだまだ初心者だと思っていたけど
まったく初めての人の中では、ベテランということになるらしいと知った。
初出馬の候補とその家族は、言われなき中傷やクレームに遭いやすく
傷つきやすい。
わたしゃそんなの、自分の家で慣れている。
しぶとい年増の図々しさ、厚かましさが
心細い人々を安心させることも知った。
私は謙虚や謙遜をやめた。
ここに自信満々のベテランウグイスが、いきなり誕生したのである。
(続く)
スタートが遅いため、ウグイス人生は加齢との戦いで
選挙を一回やると体重が5キロは減った。
そのままでいれば、さぞ痩せ細っただろうが
終わったらすぐ元通りに膨らむのは、やはり中年。
一方、美人はどうだ。
こちとらアブラ身を削っているというのに、最終日まで余裕の美貌を保っている。
美人の踏み台になるのが自分の役割だとわかってはいるが
もしや私が美しければ、どういうことになるのだろう…
もうちょっと楽ができるのではなかろうか…
しゃべれる美鳥を目指すことにしたのは、不純な動機からだった。
美鳥をもくろむ私は、まず美人ウグイスを観察。
美人は、口で自己主張しなくても
誰かがどうにかしてくれる半生を送ってきたので
声を張る習慣が無く、語彙が少ない。
気の利く人はあまりおらず、動作がおっとりしている。
これが普通の人であれば「トロい」と表現されるだろうが
美人だと「優雅」ということになる。
疲れないはずである。
しかし苦労もあるようだ。
変なオヤジに馴れ馴れしくされたり
関わりを持ちたくて、ツンデレをもくろむサドオヤジの対処はウザそう。
こういうオヤジ、どこの選挙事務所にも必ずいる。
美人は慣れているらしいが、私から見るとかなり大変そうだ。
そもそも美人は選択肢が多いので
じっくり観察して何かを得る前に、すぐどこかへ就職したり
結婚していなくなる。
結局のところ、私とは遺伝子の段階から違うということぐらいしか
わからなかった。
他にたいした収穫も無いまま、数年が経過。
そのうち、楽がしたいだの、美鳥計画だの
のん気なことを言ってる場合じゃなくなった。
さえずる舞台が無くなったのだ。
きっかけは、今は亡き義父アツシ。
彼は大変な選挙好きだった。
俗に言う参謀屋、つまり選挙ブローカーの友達が何人かいて
その人達と一緒に朝から晩まで選挙事務所に詰めるのが趣味。
アツシは、私がウグイスをやるのを嫌った。
えらそうに人前でチャラチャラするな…
そんな暇があるなら、自分達にもっと尽くせ…
というのが彼の主張である。
私もアツシの関わる選挙を避けたため、活動の場は自然消滅した。
敵味方に分かれるのもイヤだし、同じ候補はもっとイヤ。
何が悲しゅうて、外に出てまで大嫌いな舅と関わりを持たにゃならん。
しかも家事をしいしい選挙に駆けつけるのは
かなりしんどいと身にしみていたので、それでよかった。
ここで初めてわかったことがある。
美人ウグイスが美人のままでいられる最も大きな理由は
父ちゃんや子供のために、せっせとご飯を作らなくていい環境にいるということだ。
独身か、子供がいないか、または元気な母親が全面協力している。
遺伝子も違うけど、環境もはなから違っていたのである。
私のウグイス人生は、これで終わるはずだった。
しかしそこへ、世代交代の波が到来。
アツシの糖尿病が悪化して、選挙事務所に詰めるのが辛くなってきたのだ。
立候補者も変化してきた。
口うるさいご意見番にかしづき、もの入りなブローカーを使う
クラシックな選挙祭でなく
しがらみ抜きのコンパクトな選挙を目指す若手がチラホラ出始めた。
私はコンパクト派の候補から、直接依頼されるようになった。
誰かを介してウグイスを紹介してもらうと
そこからしがらみが生まれるからだ。
向こうは初めてで、何もわかっちゃいないので
私の乏しい経験が頼り。
加えてアツシの息子の嫁というプロフィールが、私にゲタを履かせた。
選挙界では有名な、あのアツシさんの家族だから
何でも知っているに違いない…
嫁というのは誰でも可愛いもので、その嫁を出すんだから
アツシさんも陰で応援してくれているに違いない…
実態を知らない人々からそう思い込まれた私は、事務所で尊重された。
「違う」と言ったら「謙虚」と言われ
「逆だ」と言ったら「謙遜」と言われ、非常に困ったが
うちの嫁舅問題を他人に説明するわけにはいかない。
放置していたら、参謀の一味という身の上になっていた。
楽がしたいどころか、以前よりずっと忙しい。
「知らんぞ!」
私は叫びたかったが、たまたま選挙は他の人々の尽力で当選した。
感謝されて、穴があったら入りたかった。
父親の虎の威を借りる、我が夫やその姉を軽蔑してきたが
私も同じ穴のムジナであった。
活動の場を失う原因になったのもアツシだが
美のゲタが無い私に、風評というゲタを履かせてくれたのも
彼だったというわけ。
ともあれ、自分はまだまだ初心者だと思っていたけど
まったく初めての人の中では、ベテランということになるらしいと知った。
初出馬の候補とその家族は、言われなき中傷やクレームに遭いやすく
傷つきやすい。
わたしゃそんなの、自分の家で慣れている。
しぶとい年増の図々しさ、厚かましさが
心細い人々を安心させることも知った。
私は謙虚や謙遜をやめた。
ここに自信満々のベテランウグイスが、いきなり誕生したのである。
(続く)