殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

今年の忘年会

2017年12月25日 14時50分16秒 | みりこんぐらし
先日、町内の焼肉屋で会社の忘年会があった。

毎年のことながら、私の足は筋肉痛。

普段使わない太ももの筋肉を使うからだ。


女は私だけなので、いつも下座に座る。

下座の担当者は、飲み物や追加の食べ物の注文に忙しい。

それらは、ひとまず下座へ運ばれる。

焼肉屋の座敷は狭いため、店員が配って回るスペースが無いからだ。


下座担当者は、それを注文した者へと振り分ける。

近い者には直接、遠い者には参加者の善意にすがって回してもらう。

そのたびに中腰になり、片足を軸に方向転換を繰り返すと

ほぼ日舞。

太ももに負担が来るのだ。


せめて焼酎ぐらいはボトルで取り、各自がセルフで飲んだらどうか‥

そう考える人もいようが、それは庶民の酒席をご存知ないお方。

ボトルを頼めば、焼酎の瓶は確かに一本来る。

しかしそれに付随する氷や湯、レモンに梅干しなんかは

酒に対して圧倒的に量が少ないものだ。


庶民の酒飲みは、この時とばかりにグラスへ氷をぶちこみ

アイスペールをすぐ空にしてしまうし

女房が怖くて家では使いにくい、レモンや梅干しを入れまくる。

それら付属品の追加注文で、かえって忙しくなるのだ。


しかもほとんどゼニにならないためか

田舎の店ではおおむね、付属品を持って来るのが何げにごゆっくり。

まだか、まだかと言われながら催促を繰り返すのは

面倒くさいったらありゃしない。

ボヤボヤしているとお代わりを作らされ、単品を注文するよりせわしい。

触らぬ神に祟りなし。


寄る年波か、今年は特に筋肉痛が重篤。

来年はウォーミングアップをしてから臨まなければなるまい。


そんなことよりも我ら一家の注目は、例の苦労人。

この焼肉屋を前日にドタキャンした男が参加するというので

その図々しさに半ば腹を立て、半ば楽しみにしていた。


はたして苦労人は、いつもの作業服ではなくスーツ姿で現れた。

散髪までして、白髪をソフトモヒカンに刈っている。

上司である河野常務と同席するので、身づくろいをした模様。


この日の席次には気を使った。

ドタキャンの怒り冷めやらぬ夫とは距離を置かなければならないし

地位や勤続年数といった身分の順で座らせると、私の隣になってしまう。

あんなに大きくて気の利かないのが隣に来ると

身動きが取れないではないか。


が、心配はいらなかった。

ザ・苦労人、藤村は、我々が考えるよりもずっとしたたかであった。

この席の最高権力者、河野常務にピッタリとくっついて

No.2の席を自ら確保。

本来、この席ではNo.2であるはずの

経理部長ダイちゃんがその隣で、言うなればNo.3の位置に下がった。


結果的に藤村は、常務と経理部長の間に挟まれる形となる。

そこで初めて、彼は自分の置かれた環境に気づいた模様。

左右を煙たい人物に挟まれた緊張のためか

ほとんど飲まず、食べず、しゃべらない。

そのあわれな姿に、我々は溜飲を下げだのだった。


やがて上着を脱ぎ、ネクタイを緩めた藤村。

その首には何やら神社仏閣系らしきネックレスがぶら下がり

手首にも念珠のブレスレットが複数。

「怪しいヤツ‥」

息子たちは夫に耳打ちし、夫は

「弱いんじゃ」

と返していた。

その夫も浮気三昧の頃は

念珠のブレスレットを後生大事に付けていたけど、すっかり忘れたらしい。



忘年会は和やかに終了。

翌朝、藤村から夫に電話があった。

夫の携帯は着信拒否のままなので、会社の電話だ。

「昨日はありがとうございました。

あんなにおいしいとは思いませんでした」


「礼の電話はちゃんとかけられるらしい」

夫は気を良くして着信拒否を解除した。

私は意外に狡猾な藤村が、河野常務と親密な夫を

初めて目撃したからだと思っている。

社内の人間関係を把握したため、すり寄ってきたのだ。

が、忘年会も終わったことだし、忘れることにした。
コメント (4)
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