殿は今夜もご乱心

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手抜かない料理・1

2020年06月05日 21時44分49秒 | 手抜き料理
先日、我々仲良し同級生の5人会は

メンバーの一人、ユリちゃんの嫁ぎ先のお寺へ料理を作りに行った。

この日は、毎月行われる勤行(ごんぎょう)の日。

特別に熱心な檀家が集まって勤行に参加し

皆で会食をするのが古くからの習わしである。


人数はコロナ前より少なくなって10人前後

それにユリちゃん夫婦と、ご主人モクネン君のブレーン

そして我々4人を合わせると、総勢20数人になるという。

当初はお寺の境内を整備する人たち数人の昼ごはんを作るという話だったが

いつの間にか、そういうことになっていた。


この行事、以前は料理上手の檀家が会食の調理を担当していたが

加齢によって歯が抜けるようにいなくなってしまった。

そこで料理の苦手なユリちゃんは、実家の兄嫁さんに頼んだり

買い集めた惣菜で乗り切っていたが

このところ兄嫁さんの体調が思わしくなく、惣菜のコレクションも手詰まり。

そこで我々同級生が出動することになったのだった。


我々にとってこの日は、特別な日になると思われた。

なぜなら一つ前の記事『女心』で触れた、梶田さん御一行が

我々の料理の腕前を偵察に来る。

料理自慢として、時折お寺で手料理を振る舞う彼女にとって

我々は気になる存在らしい。


そして我々もまた、彼女の偵察を快く思わなかった。

我々と同じく檀家でない彼女らが

わざわざ参加を申し出る真意を感じ取ったからだ。

本当の料理自慢であれば

作る側の負担を考えて遠慮するのが常識である。

故意に人数を増やしてまで来たがるのは

燃えるライバル心に他ならない。


「返り討ちにしてくれる!」

我々はそう誓い合い、献立の構成を練るのだった。

そうよ…会食は献立が全て。

本職の板前じゃないんだから

味の方は誰が作っても似たようなものさ。

何と何を組み合わせるかで食事の印象が決まり

結果として満足感につながるのである。


が、その日が近づくにつれ、ラスボスが別にいることを知った。

モクネン君の弟、マンネン君だ。

彼は大変な料理好き。

好きが高じて、本職である僧侶のかたわら

仕出しめいたことや出張料理人みたいなことをやっている。

そのマンネン君がプロの立場から、我々の料理に興味しんしんだそう。


「自分と比べて勝ち誇るつもりよ。

“たかがオバさん料理だろ?ま、いただいてみようかな”

って、最初っから上から目線だもの。

悔しいったらありゃしない。

私が戦うわけじゃないけど、絶対に勝って欲しい」

ユリちゃんは、我々を料理対決の土俵に立たせるつもりらしい。

美味しんぼか!


これを聞いた一同は色めき立ったが、私はそうでもない。

いつぞやユリちゃんの招きで

同窓会の面々が花火見物にお邪魔した際

彼の作ったオードブルを食べたことがあり

実力を知っているからだ。


当時の私の評価は、「パパの独りよがり」。

料理好きのお父さんが、自分の食べたい料理の中から

自分の作れる物ばかりを選抜して並べた感じだった。

つまるところ、フライと唐揚げのオンパレードで

季節感は無いに等しく、お世辞にもおしゃれとは言いがたく

粋や洗練なんてものは微塵も見当たらず

当然ながら味もありきたり。

これが無料なら、もうちょっと甘い採点をしたかもしれないけど

ちゃんと勘定を払ったので容赦ないのだ。


梶田さんだけでなく、マンネン君までが

我々の実力を試そうと待ち構えている…

この状況、私は選挙食の賄いで慣れているが

あとの3人は緊張しつつも、けなげに頑張ろうとしていた。

しかし、我々に与えられた条件は不利である。

目的地まで、車で1時間はかかるからだ。

そして会食が始まるのが11時半と、早い。


この日はユリちゃんの希望で昼の会食だけでなく

夜の小規模な会食も作ることになっていた。

間に合わせるには、かなり朝早く出なければならない。

とはいえ早く行ったところで、できることは限られる。

お寺の台所は狭く、4人が入ると効率良く立ち回れない。

しかもガスコンロの火は3つきり。

向こうで最初から作ると、完全に間に合わない。


そこでいつもの奥の手、『家で作れるところまで作って持ち込む』を

迷わず採用。

よって出発を9時と、あえて遅くして

私とけいちゃんは、自宅でできるだけ料理を作ることにした。


こうして大量の荷物と共に、4人はお寺へ乗り込む。

お寺には数年前まで、檀家でなければ台所へ入れない掟があったが

気にする檀家がいなくなったからか、背に腹は変えられないということか

我々5人会のメンバーは、すんなりと台所の人となった。


さて、当日の献立。

《昼の部》

牛肉の野菜巻き

鶏モモの八幡巻き

焼豚

揚げ高野豆腐のあんかけ

海老パン

鶏レバーのニラ炒め添え

キンピラごぼう

グリーンサラダ・トマトとモッツァレラチーズ添え

ナメコの味噌汁

白ごはん

香の物



手間のかかる牛肉の野菜巻きと鶏の八幡巻きは

けいちゃんが朝、家で巻き巻きして

後は焼けばいいようにして持って行った。

私は2日前から焼豚を煮込み

当日の朝は鶏レバーとキンピラごぼうを仕上げ

隠し球の海老パンの下ごしらえをして持って行った。


ちなみに海老パンとは、中華風のカナッペ。

①殻をむいた生の小海老を包丁で細かくなるまで叩く

②小口切りのネギ、酒、塩コショウ、オイスターソースそれぞれ適当に

片栗粉小さじ1、卵白1個分を入れて混ぜ合わせ、ディップを作る

③薄いサンドイッチ用の食パンを4つに切り

1個ずつ、カレースプーンで海老のディップを控えめに乗せる

④熱した油に、海老ディップの面を下にして投入し

パンがきつね色になってきたら裏返して少し揚げる

以上


難点は、新鮮な生海老がたくさん必要なため財布に厳しいのと

海老の殻むきに時間がかかることだが

味付けや揚げ方は簡単で、どうやっても美味しくなるから失敗が無い。

海老を乗せた面から油に入れると

離れてしまわないか心配になるかもしれないが

片栗粉と卵白のおかげで離れないから

安心して取り組んでもらいたい。

食べたら多分、ほっぺが落ちると思う。

人に食べさせたら、大絶賛間違い無しの最強料理である。

《続く》
コメント (2)
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