大川原有重 春夏秋冬

人は泣きながら生まれ幸せになる為に人間関係の修行をする。様々な思い出、経験、感動をスーツケースに入れ旅立つんだね

珈琲の旅

2009-06-09 17:26:00 | グルメ
 2000年5月14日、『長崎出島・珈琲フォーラム 珈琲事始め』で、標 交紀さんがパネリストとして参加された「珈琲カップから世界がみえる」という講演録の中から、標さんがお話ししているモロッコの旅の部分を紹介させていただきます。

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 モロッコは、まったくお茶の国なのです。ですから、ほとんど珈琲は飲めなかった。それで、私はガイドを雇いまして、するとその、国で指定するガイドの免許を持っている人は、国の恥ずかしいところは絶対連れて行かないのです。ところが珈琲屋っていうのは、そんなにいいところにあるものじゃないのです。大体、どうしようもないところにあるのです。特にうまい珈琲屋というのは。それで、ガイドに一日連れて行ってもらっていたわけですが、そのうち珈琲の匂いで、惹かれる場所があったので、そっちに連れて行ってくれというと、ここから向こうは絶対にだめだと、そして、その日別れまして、その翌日にそのあたりをうろうろしてたんです。行こうか、行くまいか…。そしていったら私の後ろに乞食がいて、その彼が、なんか言うのです。で、俺はそこの珈琲屋に行きたいのだと…。ちょうど白い壁がずうっとつながっていまして、ちょうど人が入れるくらいの穴があいているのです。中は真っ暗なのです。だからそこまでは行くのですけど、ぱっと戻ってきちゃうのです、怖かったものですから…行っちゃいけない場所ですから。そこで、この乞食と一緒ならいいだろうと、そこで話をしたら、俺はよく行っている店だと。私も乞食とおんなじ格好をしていればよかったんですけど、一応きちんとしてるんです。で彼はだめだというのですけど、チップを大枚をはたいて、彼に連れて行っていただいたんです。
 で、入っていったのです、ワイフと一緒におそるおそる。ワイフは外で待っているといったんですが、待たしているほうが危ないから、一緒に入ると、真っ暗なんですね。でも、珈琲の香りは凄いんです。そして、目がだんだん慣れてきたら、それこそ穴のあいたテーブルと、ただ、座れるという椅子があって、またその白い壁の向こうに、何か見えるのです。それでふっと見たら、みんな寝てるんですよ、珈琲を飲みながら、そこのご主人が、しょうがないのが入ってきたなという顔をして、立ち上がってきたわけなんです。で、乞食の彼が、彼らは珈琲を一杯飲んだら出て行くって言ってるのでつくってやってくれって言ってるんです。で、ご主人が珈琲を作ってくれて、一杯目は汚いガラスのコップに入ってきて、ワイフは、絶対私は飲まないと、で、私は飲んだんです。これがまったく胸にしびれてくるような珈琲なんです。それでワイフに飲めと、で、そのときの私の顔と動作を見て、飲んだらもう一杯お代わりと、でも乞食はもうだめだだめだと、でももういっぱい飲んで、つくり方も見たいじゃないかと、で、ご主人は商売ですから、炭がこう、おきているところにイブリックを重ねて、で、私が興味を持って見てたもんだから、ご主人は天上を指すんです。ふっと見たら、もう古ぼけた、そこのご主人の若い頃の写真があったんです。美味しい珈琲店っていうのが30年位前に出たのでしょう、その新聞も飾ってあって、やっぱり美味しかったんだなあと。
 そして飲んで、そこで終わればいいところが、ふっと向こうを見たら、日本人がお酒を飲む枡が、山のように並んでるんです。あの枡はなんなのかと思っていたら、寝ながら珈琲を飲んでいるから珈琲がこぼれちゃうのです。で、珈琲のグラスを枡に入れて、珈琲をちびりちびりと飲んでいるのです。それで、私は間仕切りからは彼達のほうには入りきれなかったから、そこに枡をおいて、珈琲を置いて、写真を撮ったのです。そしたら彼らは、自分達の写真を撮ったと、で、私の胸ぐらをつかむので、そうじゃないと…、そこはそのご主人と乞食とでおさまったんです。で、それでやめればいいところを、また主人が器と一緒に俺を写真に撮れよといって撮った時に…ちょうど起き上がった方がいて、彼が写真を撮ったとものすごい剣幕で怒ってきて、ただ、私はイスラムの方は口じゃ凄いけど、絶対に手を出さないと知っていたので大丈夫だと思っていたら、何か胸から出した物があたって、私の顔から血が出てたんで、頭に来ちゃって、そいつを思いっきりひっぱたいちゃった。それで、ワイフと乞食の手を取って夢中になってホテルまで逃げたわけです。そんなことがありましたけど、そのときの珈琲は最高でした。(笑)