平成26年9月に会計検査院が溶融炉を整備している市町村が溶融炉を稼動している場合であっても、溶融スラグの利用が行われていない場合は補助目的を達成していないことになるという意見表示を行いました。
市町村が製造する溶融スラグは「製品」になります。したがって、溶融スラグを製造した段階で有害物質の溶出量がJIS規格等の基準に適合していても、将来、何かの影響で有害物質が溶け出した場合は環境汚染の可能性が高まるため利用することが困難になります。
また、沖縄県民の約70%(約100万人)が溶融炉に依存していることから、万が一、どこかで溶融スラグによる環境汚染が発覚した場合は、農業や漁業だけでなく、観光業等も含めて沖縄県全体が大きなダメージを受けることになります。
しかし、沖縄県は県の廃棄物処理計画において溶融炉の整備を推進しています。そして、県内の市町村に対して県の考え方に即してごみ処理計画を策定するように求めています。
そこで、ネット上に公開されている情報の中から、溶融スラグの環境汚染リスクに関する「論文」を探してみることにしました。下記は平成24年に発表された「論文」です。
以下は「論文」の概要です。
(1)溶融スラグについては一部の自治体においてはすでに歩道ブロックなどで試用されているが、その安全性(耐久性・毒性)については、まだ十分に把握できていないのが現状である。
(2)特に原材料となる都市ゴミの組成が、地域や季節によって大きく異なるとともに、溶融炉の形式にも多種多様なものがあり、スラグの性質が大きく異なることが予想される。
(3)また安全性を調査する方法も、JISで定められている中性の水を用いた短時間の溶出試験のみしか行われないことが多い。
(4)現在までの多くの研究では、スラグの建材としての適用性は骨材としてコンクリートと混ぜた後の製品の強度や耐久性の確保のみから検討されており、材料のスラグのそのものの化学成分や長期安定性を調べたものはほとんどない。
(5)溶融スラグについて、建材として再利用した場合の安全性を確認するため、作製方法や採取地の異なるものを用い、さらに加工することなく直接に水、酸性や塩基性での溶出試験を行い、その特性について考察した。
(6)一般廃棄物を起源とする再生加工品である溶融スラグの安全性について、有害金属の溶出という観点から検討したJISにもある溶出試験では、水を用いた場合には対象としたいずれの元素の溶出も非常に少なかったが、酸性雨やコンクリート浸出液を想定した酸、アルカリ溶液を用いた場合ではより高濃度に溶出する傾向があることが明らかとなった。
(7)今後、長期的な酸、アルカリによる溶出の検討が、少なくとも最終製品について金属の化学形態や毒性も考慮した上で必要ではないかと考えられる。
以上が「論文」の概要です。市町村による溶融スラグの「製造」は市町村の責任において行われることになります。したがって、溶融スラグによる環境汚染リスクは、将来に亘って、市町村民が負担していくことになります。
なお、会計検査院の意見表示により溶融スラグの利用が困難になった場合は国から補助金の返還を求められることになります。また、溶融スラグを利用している現場において環境汚染が発生した場合は沖縄県全体に大きな影響を与えることになるので、溶融炉を整備している市町村において長寿命化を行う場合は十分な注意が必要になると考えます。
その意味では、溶融炉の長寿命化に関する問題は、一市町村だけの問題ではなく、沖縄県民全体の問題であると言えます。
※このブログの管理者は溶融炉の長寿命化を行う場合は、事前に過去に利用した溶融スラグを任意に現場から採取して、再度溶出試験を行っておく必要があると考えます。なぜなら、過去に利用した溶融スラグから環境基準を超える有害物質が溶出している場合は、これから利用する溶融スラグにおいても未来において有害物質が溶出するリスクがあるからです。