瀬谷さんが馬主のチビラーサン(梅崎晴光さん提供)
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神奈川県川崎市在住の自営業、瀬谷隆雄さん(70)は所有する競走馬に「チビラーサン」(素晴らしい)や「ウシェーランケー」(見くびるな)など、ウチナーグチに由来する名前を付けている。
復帰直後の沖縄と本土との間には生活水準の格差があった。その頃、長期滞在し、仕事で電話回線や通信工事を手掛けた際、地元の人々に親切にしてもらった記憶が脳裏に焼き付いている。「純粋できれいな目をしたウチナーンチュのように輝いてほしい」。瀬谷さんは大好きな沖縄への思いを愛馬に託している。
福島県出身で電気通信工事の技術者だった瀬谷さんは、26歳の時に単身で会社を立ち上げた。本土では1950年代後半から順次、日本電信電話公社(現在のNTT)により、固定電話のダイヤル直通化が整備されていたが、米占領下にあった沖縄は大きく立ち遅れていた。本土復帰を機に、電電公社は72年から沖縄全域の通信環境の整備に乗り出し、瀬谷さんはその下請けとして工事を担った。
民宿などに泊まりながら、3年かけて県内の有人島を端から端まで渡り歩いた。「生活が大変なはずなのに、どの町にいっても皆優しく迎え入れてくれた」。瀬谷さんはウチナーンチュの「穏やかで温かい人柄にたくさん助けられた」と繰り返す。
沖縄全域での事業が起爆剤となり、自社は急成長した。瀬谷さんは築いた富で競走馬を購入し、馬主となった。
現在は地方競馬も含めると18頭を所有している。うち、昨年デビューした3歳牝馬には「きびきびと立派な走りを見せてほしい」との思いで「チビラーサン」と名付けた。別の牝馬には故翁長雄志前県知事が基地負担を沖縄へ押し付ける日本政府に対して発した「うちなーんちゅ、うしぇーてー、ないびらんどー」(沖縄人をないがしろにしてはいけませんよ)に着想を得て、「ウシェーランケー」と名付けた。
他にも「ウジラーサン」(賢くて美しい)や「キッズウヤウムヤー」(親孝行者)もいる。いずれも沖縄通の友人で、ノンフィクション「消えた琉球競馬」の著者である梅崎晴光さん(56)に相談して決めた。梅崎さんは「ウチナーグチには感情や情景を的確に表す魅力的な言葉が多い」と話す。
「馬の活躍で、少しでも沖縄の皆さんに喜んでもらえたらうれしい」。馬を通じた沖縄への恩返しにかける瀬谷さんの思いは熱い。
(当銘千絵)