TONALITY OF LIFE

作曲家デビュー間近のR. I. が出会った
お気に入りの時間、空間、モノ・・・
その余韻を楽しむためのブログ

トリプルアクセルのバトンはラフマニノフに乗って

2014-04-01 23:15:51 | フィギュアスケート
さすがは大技、トリプルアクセルが決まると氷上でカラットの大きな宝石が輝いたかのよう。
ショートの衣装ならアメシスト、フリーなら群青のサファイヤといったところか。
世界選手権@さいたまの浅田真央、ノクターンの録画をもう何度リピートしたことだろう。

成功から遠ざかっていたときはリスクが高過ぎるのではと気を揉んでしまったが、
ピタッと着氷するととてつもなく魅力的である。
フィギュアのジャンプのなかで唯一前向きに踏み切るため、回転力や飛距離を得やすく、豪快にして華麗。
「このジャンプを失いたくなかった」と語る浅田自身こそが、誰よりもトリプルアクセルに魅了されているのに違いない。
高難度ジャンプへの挑戦をまるで罰ゲームのように回転不足で減点する採点システムのなかで、
よくも挫折することなく跳び続けてきたと思う。
しかもフォームが以前より明らかによくなった。
跳ぶ前の姿勢、着氷後の流れ、希少な宝石にはさらに磨きがかかっている。

女子のトリプルアクセルと言えば、先駆者は伊藤みどりである。
1992年のアルベールビル五輪で鮮やかに決めたシーンは、今でもR. I. の脳裏に焼きついていて離れない。
感動のあまり手に入れたラフマニノフ・ピアノ協奏曲全集のCDは、ハイティンク指揮、アシュケナージのピアノだった。
フリーの音源は前半に第1番の第1楽章、後半に第2番の第3楽章をつないだもの。
ショートではトリプルアクセルを回避、安全策にしたはずのルッツで転倒して出遅れていた。
フリーは冒頭で起死回生を狙うも失敗、しかしながら後半再び果敢にチャレンジして、
曲のクライマックスとともにまるでお手本のようにクルクルクルクルピタッと成功させたから余計に感動したのである。

あれから22年の年月が流れて2014年。
ソチ五輪シーズンのフリーを浅田真央は第2番の第1楽章で戦ってきた。
トリプルアクセルのバトンは再びラフマニノフのピアノコンチェルトに乗って
ともに山田満知子コーチの元でスケートを始めた伊藤から浅田へと引き継がれ、
この先伝説となるであろうまさに記憶に残る演技がソチで花開いたのは何と意義深いことなのだろう。
弧を描くレイバックのイナバウアーが仙台の荒川静香から羽生結弦に継承されたのも然り、
今の日本のフィギュアの隆盛は、そんないくつものバトンが交差してできあがっている。

またしても名古屋では、大庭雅がトリプルアクセルの習得に励んでいると聞いた。
女子で跳ぶ選手が少ないのはそれだけ難しい技であるからに他ならないものの、
男子の4回転がバンクーバー五輪以降普及して上位に食い込むには必須となったことを考えれば、
躍進著しいロシア女子あたりから後継者が現れる可能性も十分に考えられよう。

ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番第1楽章を聴いて、もう一つ思い出さずにはいられないプログラムがある。
それは1994年のリレハンメル五輪、ペアで銀メダルを獲得したロシアのミシュクテノク&ドミトリエフ組のフリー。
浅田の振付けと同じく、一番盛り上がる終盤は片足を大きく振り上げてのステップから始まった。
R. I. がこの楽章から感じるのは物憂げな世界。
それがドラマティックに遺憾なく表現されていて心を奪われた。
リレハンメルはペアとアイスダンスの魅力に開眼したという点でも強く印象に残っている五輪である。
次のエントリーではそのあたりも振り返ってみたい。