木津川と名張川がちょうど合流する静寂な地―夢絃峡―の川沿いを進んで行くと,大きくて立派な日本家屋が現われる.悲運の運命を遂げた男女の伝説が残る地ということもあって,静寂の中に独特の雰囲気が漂っている気がした.
古風な日本家屋の傍までやってくると,かなり大きなお屋敷の様な建屋であることがわかった.そして,窓のほとんどが締め切られていた.それでも少し生活感があることが見てとれた.ここは鶴乃家という知る人ぞ知る温泉宿であったようだ.残念ながら今は休業中であるらしい.
鶴野家の先へと進んで行くと,高山ダムの堰堤の下へと行き当たるようになっていた.要するにこの道は高山ダムの管理道路だったわけである.曇りの日でも素晴らしい景色を見せてくれるこの場所が,ダムの関係者専用の道であることに少し惜しいような気がするのだった.
せっかく進んできたけれども,結局は来た道を戻っていかなければならない.それでも,この道を発見できたことに価値があったと思うのだった.いつの日にか,高山ダムが豪快にゲートを開けて,放水する雄姿を間近で見ることができるのだから.
普段は気にも留めない場所であっても,ゆっくりと見てまわることで初めて見える景色があったわけである.考えるよりも行動あるのみ,そんなことが頭によぎるのだった.
帰途は木津川にかかる沈下橋―恋路橋―を渡って国道へと戻ることにした.恋路橋という名前からわかるように,ここにも男女の切ない言い伝えが残っている.娯楽のなかった昔の時代,人々は景勝地に男女のロマンを重ねては楽しんでいたのかもしれない.
遠出ができなくても,身近な場所で思わぬ発見に恵まれた,とある真冬の休日のひと時だった.
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