京都府道9号線で,福知山市から宮津市を目指して北上する途中,二つの市の境にある大江山付近に差し掛かった.かつて,この辺りには,酒の大好きな鬼の頭領・酒呑童子(しゅてんどうじ)が住んでいたという.この地には,鬼退治の伝説が残っている.
大江山絵巻によると,長徳元年(995年)の京では若者や姫君たちの神隠しが相次いだという.安倍晴明の占いで,大江山に居城を据えている酒呑童子ら鬼の仕業だとわかる.そこで,帝は武将の源頼光ら一行を鬼退治へと向かわせる.伝説のあらすじは,ざっとこんなところだ.府道9号から大江山の方に分岐した道を行くと,随所で鬼たちが出迎えてくれる.
大江山周辺は,昭和の頃までニッケル鉱石が豊富な鉱山として栄えていたそうだ.戦時中は,ここで採れるニッケルが,兵器に変わっていったという.現在は町をあげて,鬼伝説をテーマとした大江山地域の活性化を図っている.鬼の人形だけでなく高さ5メートル,重さ10トンに及ぶ,大江山平成の大鬼瓦もある.オートバイと比較すると,その大きさは圧巻だ.
鬼退治へと向かう途中の,山伏の姿に装った源頼光一行らと遭遇することもできる.源頼光らは,鬼の居城で一晩の宿を乞い,酒呑童子たちと酒を酌み交わす.酒呑童子が,酒に酔って寝たところを隠し持った武器で首をはねたという.一説によると,生首は源頼光の兜に噛みつき,「鬼は人をだましたり、うそをついたりしない。それに対して人間は……」と叫んで絶命したそうだ.
源頼光は,鬼を退治するために,だまし討ちをしたことになる.目的を達成するために手段を選ばないことは,合理的ではあるが,日本人の道徳心は酷くそれを嫌う.この話は,忘れられつつある,道徳心について訴えている様な気もする.大江山の中腹には,酒呑童子とその部下のブロンズ像があって,酒呑童子は京の都の方角を指し示している.
鬼の発祥説として,当時流行した天然痘や丹後に漂着した真っ赤な葡萄酒を飲むシュタイン・ドッチというドイツ人などが挙げられている.いずれにせよ,当時の人たちが,説明できない不思議な現象を,鬼という架空の存在に帰納したことに違いないだろう.鬼の里を後にして,府道9号線で宮津市へと向かう途中で,酒呑童子も眺めたであろう宮津湾,そして丹後半島を一望することができた.
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