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年の瀬が迫った12月の荒船海岸には,曇天模様の下,鼠色の海が広がっていた.この日は,風が弱くて波も穏やかだった.冬の荒船海岸には,哀愁が漂っているような気がした.
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海岸近くの岩礁には,ただ一人で釣りをしている漁師さんがいた.そういえば,荒船海岸の日の出を見た時もそうだった.この時は,漁船が釣りをしている漁師さんを迎えにちょうどやってきたところだ.今日の漁はこれでおしまいだろうか.
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そして,沖合には,大型船が航行しているのはいつも通りだが,クレーンを搭載したタンカー船が終始,レンズの視野に収まっていた.同じ一台の船か,それとも複数台の船だったのかは分からない.それよりも,何をしていたのだろうか.
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そんないつもと少し違った冬の荒船海岸を黙々と進んで行く.それでも,岩礁を豪快に切り通した道だけはいつもと同じだ.海の目の前を走るダイナミックな海岸線の道は実に楽しい.
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変化に富んだ景色の連続で,気が付けばあっという間に荒船海岸の車道の終点までたどり着いてしまった.海から突き出た鋭利に尖った岩礁は,熊野灘の下に海底山脈が続いていることを連想させるのだった.
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そして,車道の終点地にはいつもと同じように椅子が置いてあった.ただし,以前の時とは異なるもので,椅子は新しくなっていた.この椅子は誰が何の目的の為に使っているのだろうか.ひょっとすると,漁師を引退したお爺さんが散歩にやってきては,遠い昔の自分を思い起こしているのかもしれない.
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