尾鷲港の近くの宿で一晩を明かし,翌朝まだ暗い内に日の出を見に,オートバイに跨って出発した.尾鷲湾に沿って,北側へと進んで行くと,尾鷲市南浦というところで,日の出が見れるらしい.途中で,林道に入ってしまったり,時間をロスしてしまったけれど,日の出には何とか間に合った.
水平線よりやや上空が赤く染まった東の空の下,暗い海から太陽が昇ってきた.まだ暗い尾鷲湾には,灯台のある小さな島が,ぼーっと浮かんで見えた.それがまた,田原海岸でみた漁船の姿を連想させるのだった.
太陽はみるみるうちに昇っていき,半分以上,顔を出したはずであったが,その形は球形ではなくて,縦に長い楕円形の様な形をしていた.ひょっとすると,これはだるま朝日かもしれないと,ふと思った.
すると,太陽はすぐに水平線の少し上でくびれを作り始めるのだった.その姿は,確かに”だるま”を連想させる形であった.この朝日に限っては,だるまよりも,ギリシャ文字のΩ(オメガ)の方が,しっくりくる様な気がした.
昇ってくる朝日を無心で見つめていると,くびれの部分が最も細くなる瞬間がやってきた.これは蜃気楼現象の一種で,くびれの部分が本当の水平線の位置に当たるらしい.
そして,ついにくびれ部分が切れて,太陽が二つに分かれる瞬間がやってきた.光の屈折で海面が立ち上がって見えるところに,太陽からの反射光が映し出され,このように見えるそうだ.あっという間だったけれど,とても神秘的な瞬間だった.
この現象は,日本ではだるま太陽,だるま朝日などと呼ばれ,西洋では Omega Sun と言われる蜃気楼の一種で,冬の冷え込みが強く,水平線に雲がないときにだけ生じるという.
このだるま太陽を見た者は,幸せになれるとも言われている.高知県の室戸岬や千葉県の犬吠埼が,このだるま朝日のスポットとして有名だそうだ.まさか,この尾鷲湾の南浦で Omega Sun を見れるとは思いもよらなかった.
日の出を見た感動が中々おさまらず,暫くぼんやりと海を眺めていた.すると,漁船島―勝手に命名してしまった岩礁―の前を,本当の漁船がちょうど通り過ぎっていた.おそらく,この漁船の漁師さんたちも,だるま太陽を見たに違いない.
太陽はすっかり上空まで昇り,夜は明け,尾鷲にいつも通りの朝がやってきた.
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