オートバイで旅して観たモノの記録

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九木崎原生林⑤ 頂山を登る

2022年06月27日 | 尾鷲
【目次 : 九木崎原生林】①序章, ②迷路のような道, ③オハイへ, ④オハイブルー, ⑤頂山を登る, ⑥ハカリカケ岩, ⑦帰還, ⑧エンドロール



 オハイは海水の色だけでなく,原生林と熊野灘の境界線という立地がとても神秘的かつダイナミックで素晴らしかった.オハイでもっとゆっくりしたかったけれど,明日は仕事があるので早めに帰路につかなければならない.



 そういう訳で,来た道を戻り,再び原生林の中へ入る.同時にオハイ行きの目的を果たしたためか,急にとてつもない疲労感に襲われる.オハイに降り立った時の興奮が冷めたことと,オハイで直射日光を浴びたことが原因と思われた.



 疲れを考慮して素直に九鬼町に戻ればよかったのに,まだ時間に余裕もあるし,せっかくここまで来たのだからという理由で,頂山の山頂を目指すという選択をした.この判断はあまりスマートではなかったと後々,気付くことになる.



 オハイから頂山への行程は,斜度がかなり急で心拍数が一気に上がる.そして,全身から汗が噴き出してきて,ちょっとこれは普通でないことに気付く.くしくも,三回目のワクチン接種から4日後のことだった.



 首に巻いたスポーツタオルは汗でぐっしょりで,その役目を果たしていない.軽度の脱水症状を引き起こしていたと思う.疲労のせいで何度かピンクテープを見逃し,道から外れてしまうこともあった.



 この日は5月末とは言え,真夏日の予報が出ていた.念のため,ペットボトル2本分のスポーツドリンクを用意していたが,オハイですでに1本目を空にしていた.そのため後のことを考え,残り一本を舐めるようにして水分補給することを強いられた.



 危機的状況を察知しながらも,登っては休みを繰り返していると急に視界が開けて,青い空と熊野灘がぱっと目に入る.頂山の山頂はもうすぐだと自分に言い聞かせる.



 それでも道は一向に平坦にならず,きつい登り坂が続く.本当のところ,このままだと無事に戻れないかもしれないと最悪の事態が頭をよぎる.すると,人の顔をしたような岩に出くわす.疲労でついに頭がおかしくなったと思われたが,これは幻覚ではなかったようだ.



 人面岩を過ぎると,ハカリカケ岩を示す標識が現れる.頂山の山頂は諦め,このハカリカケ岩を見てから来た道を引き返し,九鬼町へ戻ることにした.

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