子供二人が同じ年に結婚して、独立して家から出て行きました。自分では空の巣症候群などにはなっていないと思ていましたが、やはり気が抜けたようになっていたのでしょう。なんだかぼんやり暮らす自分に嫌気がさし、お茶のお稽古に通い始めました。
ご指導は、母・娘2代で教えていらっしゃる、いわゆる玄人の方でした。
その先生が、怒りを押し隠し、悲しそうに弟子たちに苦言を呈されたことがありました。
ご自宅を開放して、お茶事に招いてくださったのでした。塗りの器に簡単な食事つきのお茶会でした。
「びっくりしてしまいました!」
若い方々に手伝わせて、塗りの器を片付けました。弁当箱状態の器の蓋を取って、思わず声をあげてしまいましたよ。器の底に、魚の骨が、乱暴に散らかされていたのです。常識と思って指導しなかった、私たちも悪いのですが、こんな無作法許せませんよ。厳しく言いますから、ちゃんと礼儀をわきまえてください、とのお言葉でした。
★ 箸を上手に使って、なるべく骨は崩さないように召し上がること
★ 全部食べ終わったら、せめて、懐紙を畳んで覆いをしましょう
★ 出来たら、あらかじめ懐紙を用意しておいて、骨など残ったものは包んで持ち帰るほうがより礼儀にかないます。
★ 器が汚れていたら、器が汚れていたら、濡れた茶巾でさっとふき取って、先ほどの骨の包みとともに、用意したビニール袋に収めて持ち帰りましょう。
お茶に懐紙は当然の持ち物ですよね。その他は、心がけとして、用意しておくのが心得ですね
ということでした。
大仰に、見せつけるようなことなく、手早く、美しく始末すること、日ごろの鍛錬が必要のようでした。
日本には、こんな奥ゆかしい後始末の心得が伝えられていたのですね。いつのころからか、廃れてきていたのですね。私も食い散らしたままということはしませんでしたが、それ以下のことは心得ておりませんでした。戦後の食べるだけで精一杯の時代に、母も躾が行き届けなかったのでしょう。それとももっと前、母の母(祖母)の時代から廃れてきつつあったのでしょうか。茶道の席で、辛うじて伝わっていたのでした。