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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

教育出版の道徳教科書、教育委員会での攻防

2017年09月28日 | 暴走する都教委
 以下は、永野厚男さんが『週刊新社会』2017年9月26日号6面掲載記事に加筆したものです。
   育鵬社版社会使用の武蔵村山市教委、
 ◆ 道徳も"日本教育再生機構"関係者著の教育出版を採択
   府中市と国立市の教委は、子どもに寄り添う視点で他社版を採択
 永野厚男・教育ジャーナリスト

 「改憲団体・日本会議系の日本教育再生機構(メンバーが育鵬社版社会科の公民・歴史を執筆)理事の貝塚茂樹・武蔵野大教授ら監修・執筆の教育出版・小学校道徳教科書("君が代"起立・斉唱や"国を愛する態度"等に力点を置く)の採択はノー」。
 多くの市民がこう求める2017年8月、東京で教育出版が話題にも上らなかった2市と、教育長主導で教育出版を採択した1市の教育委員会とを、取材した。
 ◆ 武蔵村山市教委は、持田浩志氏主導で教育出版を採択

 育鵬社版社会"教科書"を既に市内の中学校に使用させている武蔵村山市教委は、8月18日の定例会で、4名の教育委員が教育出版の他、東京書籍、学校図書、光村図書の道徳教科書も推薦した。
 だが、持田浩志教育長(67歳)が「総合的判断」で教育出版採択を主張。休憩後の採決で、4名の教育委員は賛成に回ってしまった。
 50席弱の会議室は満員。別室で約30人が音声だけの"傍聴"をした。

 傍聴を終えた元教職員や保護者らは「自民党や維新に近い日本教育再生機構の、関係者だという持田浩志氏が教育長を務めているのだから、『著者・発行者も採択権者も同じ政治的グループの人物』ということになり、"出来レース"だ。こういう教育長を任命した日本会議系市長を落選させ、リベラルな市長と教育長に変えていく運動も必要だ」「残念ながら我が市では、教育に右寄りの政治が入り込んでいる。公正・マトモに教科書を採択できるシステムに改めるべく、4野党共闘で立憲主義を大切にする政治家が過半数になるよう、政治を変えていかなければいけない」などと、口々に語っていた。
 ◆ 日本文教出版採択の府中市教委では、「現役五輪メダリスト等掲載の教科書は不適切」との判断が明確に
 8月17日の府中市教委定例会では、教員出身の齋藤裕吉委員が①道徳ノートを分冊で出している社があるが、道徳ノートで考える方向を示し、埋めれば終わり、②五輪でメダルを取った等、社会的評価が定まらない現在活躍中の著名人を載せる――などの教科書は不適切だと、選定"基準"を提示し、東京書籍を推した。
 小児科医の崎山弘委員が「問題の唯一の解決策を教えるのでない教科書を」、元PTA会長の那須雅美委員が「児童が考える道筋を懇切丁寧に書き過ぎていない教科書を」と、日本文教出版を推薦。
 元東芝府中ラグビー部選手(12年の引退後は同社員)の松田努委員は「当初は現役メダリストに児童が共感すると思ったが、臨時会で他の委員のご意見を聞き、五輪の裏方さんや無名のスポーツ選手を取り上げている教科書に」と述べた。
 最後に、浅沼昭夫教育長が「臨時会の主な議論」に「社会的評価の定まっていない著名人を道徳教材として扱う場合、配慮が必要」というのがあったなどと説明。「(事務局が作成の)ペーパーに『道徳教科書、日本文教出版』とある通りで、よろしいでしょうか」と諮り、委員全員の賛成で同社を採択した。
 審議内容と結果は良かった。だが、審議方法(採択過程)には多くの市民が疑問を持った。
 この定例会は前述通り、事務局が最初から委員と傍聴者に「道徳教科書、日本文教出版」と明記した紙を配り、審議の冒頭、浅沼昭夫教育長が「白紙の議案を白紙から審議する議案審議の適正化を図るため、教科書選定では事前の8月4日に臨時会で協議し、本定例会に出すことにした。臨時会の会議録は後日、HPで公開する」と発言した。
 このため公開案件後の休憩の15分間、傍聴者44人の多くが残り、「採択過程が不透明」「パソコンがない高齢者は、HPが見られない」などと異議を唱えた。この他、市教委事務局による傍聴手続きの急な変更(前日の16日までに「町名まで」とはいえ、住所や氏名を登録させる)についても議論になり、志摩雄作・教育総務課長が「意見交換する場を設けることを検討する」と述べ解散した。だが、9月12日現在、その場の設定はない。
 ◆ 東京書籍採択の国立市教委は、「考え議論する道徳」とノーマライゼーションを重視
 「教育出版不採択を求める」等の要望書が6月以降、市民やNGOから4件寄せられた、国立市教委は8月29日、東京書籍を採択した。
 選定理由(選定するか外すかの"基準"にした視点)を、城所久恵委員は「誘導的発問があると、示された道を歩めばいいということになり、『考え議論する道徳』にならない」などと説明。
 高橋宏委員は「東京書籍は『考える道徳』を意識し作られ、読み物教材の後に主発問を2つ示し、分量・構成のバランスが良い。巻末に『輝く自分に』というのがあり、道徳的実践に期待できる」と述べた。
 山口直樹委員は、国立市が「障害者が当たり前に暮らすまち宣言」をもとに、条例を制定していることを踏まえ、「ノーマライゼーション(注、normalization=障害者や高齢者が健常者と同様に生活し活動することが、社会の本来あるべき姿であるという考え方)を教えていくことが大切」と語った。
 約30人の傍聴者の中には、武蔵村山市教委に続き8月22日、江戸川区教委が教育出版を採択してしまった情報を得ている研究者や、現・元の保護者・教職員らが数人いた。
 そして傍聴終了後、元教員は「石井昌浩氏(77歳。日本教育再生機構副理事長で育鵬社"教科書"執筆者)が本市の教育長で、持田浩志氏が学校指導課長だった01年の中学社会科教科書採択時は、扶桑社"教科書"("新しい歴史教科書をつくる会"が作成)を採択せよと叫ぶ右翼が大勢押しかけてきて、会議室は異様な雰囲気だった」と述べた。
 元保護者は「01年の採択の会議で、"つくる会"関係者と言われる当時の女性教育委員(【注】参照)が『扶桑社採択』を主張した時は、『子どもに国家主義が植え付けられるのでは』と一瞬、頭が真っ白になった。幸い、他の委員が他社版を推し、政治団体の作った異様な"教科書"が本市で採択されることはなかったが・・・」と、回想し発言。
 この発言を受け、研究者は「本日、『考え議論する道徳』に反する教育出版が候補にも上がらなかったのは、特定の政治団体に関わる教育委員は一掃され、子どもに寄り添う教育委員が増えたからではないか。今後もしっかり現状分析し、公的に要望書や陳情を出していくなど、継続した取り組みを続けるのが大切」と語った。
【注】当時の女性教育委員が「つくる会国立支部長」という宛名の封筒を持っていたのを、数人の市民が現認している。
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