=橋下「独裁」の背景と"大阪秋の陣"の課題 (上)=
◇ 新自由主義と国家主義の結合 巧みな大衆煽動に抗して
◆ はじめに
大阪の政治的情勢が重大となっている。橋下徹大阪府知事が率いる大阪維新の会は、秋の大阪府議会及び大阪市議会に「教育基本条例」と「職員基本条例」を提出した。
教育基本条例は、今年の6月3日に大阪府議会で成立した「君が代」条例の延長上に出されたものである。「君が代」条例は、府立学校と府下の市町村立学校の教職員に「国歌斉唱時の起立・斉唱」を義務づけた。
教育基本条例では、「5回目の職務命令違反又は同一の職務命令に対する3回目の違反を行った教員等に対する標準的な分限処分は、免職とする」とされている。「君が代」条例に基づく職務命令に従わなかった場合の、処分が定められている。「君が代」強制を徹底し、憲法で保障された「思想及び良心の自由」に違反する内容である。
教育基本条例ではさらに、教員の人事評価、高校の学区撤廃、3年連続で入学定員を満たさなかった場合の統廃合など、教育に市場原理を導入する新自由主義の徹底が目指されている。
職員基本条例では、職員は「準特別職員」「現業職員」「一般職員」の3つに区分される。
準特別職員には、首長の政治的意思を最も忠実に実行するメンバーが*公募によって選ばれ、強力な執行部が結成される。
職員には人事評価が定められるとともに、2回連続最低評価だった場合には、職員は「指導研修」を受け、それでも改善が見られない場合には分限処分が行われる。
「競争と格差」の構造を導入することによって職員の分断化をはかり、首長の政治的意思が末端にまで貫徹する体制が目指されている。
これでは、公務員は地方住民の側に立つ「全体の奉仕者」(憲法15条)ではなく、首長の指示を忠実に実行するだけの存在へと変えられてしまう。
教育基本条例と職員基本条例の内容は、「新自由主義と国家主義」の結合であり、橋下「独裁」を導くものであることは明らかだ(教育基本条例と職員条例について詳しくは、大内裕和「橋下「独裁」は何を奪うか」『世界』2011年11月号を参照)。
◆ なぜ支持
橋下府知事への支持が高いのはなぜか。第一に、2009年に行われた政権交代への人々の期待が裏切られたことがその原因にある。
沖縄における米軍基地問題の解決や派遣労働への規制強化など、人々が期待した政策はほとんど実現していない。
生活保護受給者は今年に入って、59年ぶりに200万人の大台を上回った。構造改革による「貧困と格差」が顕在化したことが政権交代の要因の一つであったにも関わらず、それはむしろ深刻化している。政権交代への期待が裏切られたことが、橋下府知事さらには大阪維新の会=地域政党への期待につながっている。
第二に、大阪の深刻な経済的状況がその背景にある。経済的苦境が続いている日本社会のなかでも、大阪は一層深刻な状況にある。
グローバル資本主義は企業の海外移転を促すことによって、大阪経済の空洞化をもたらした。また、グローバル化にともなう世界都市「東京」の成立によって、これまで大阪にあった企業本社機能の東京移転が進んでいる。東京との経済的格差は着実に広がっており、失業率も高い。
NHKスペシャル「生活保護3兆円の衝撃」でも明らかになったように、大阪市では市民の18人に1人が生活保護を受給し、その数は全国一となっている。深刻化する経済状況と閉塞感の広がりが、それを打破してくれる存在として、橋下府知事への支持を高めている。
◆ 関西財界の期待
橋下府知事は知事を辞任し、11月の大阪市長選挙に立候補する意向を示している。11月27日は大阪府知事・市長のダブル選挙となる可能性が高い。この”大阪秋の陣”へ向けての課題は何であろうか。
大切なことは、橋下府知事を支える階級をしっかりと見定めることだろう。橋下府知事が推進する「大阪都構想」やその後に想定されている「関西州構想」は、自治体リストラと構造改革をドラスティックに推し進める内容であり、関西財界はその実現を強く期待している。
橋下府知事の政治手法はポピュリズムに基づくものであり、既成政党や中央官庁を「敵対勢力」として設定して、大衆扇動を巧みに行ってる。
しかし、橋下政治を支えているのは関西財界であり、そのことを明らすることによって、扇動されている人々に彼の政治の本質やそれがもたらす影響を伝えることが可能となる。閉塞感が広がっているなかで、そのことをどれだけ訴えてるかが課題となる。
また教育基本条例や職員基本条例がもたらす問題点を明らかにすると同時に、この条例の提出がいかなる効果を狙っているかを明確に訴えることが重要である。
教育基本条例と職員基本条例は、教員と公務員への極めて厳しい規律と処分強化の内容となっている。これは、近年の教員バッシングや公務員バッシングの延長上にあると見ることができる。これらが新自由主義の統治手法であることを捉える必要がある。
(続)
おおうち・ひろかず 1967年生。神奈川県出身。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。松山大学人文学部助教授を経て、2007年度より同大学教授。2011年度より中京大学教授。「教育基本法の改悪をとめよう!全国連絡会」の呼びかけ人の一人で、高橋哲哉とともに教育基本法改悪反対運動の中心人物である。「格差社会問題」、「貧困問題」にも詳しい。1990年代末頃から『現代思想』(青土社)等に数々の論文を発表している。
『週刊新社会』(2011/10/25)
◇ 新自由主義と国家主義の結合 巧みな大衆煽動に抗して
中京大学教授 大内裕和
◆ はじめに
大阪の政治的情勢が重大となっている。橋下徹大阪府知事が率いる大阪維新の会は、秋の大阪府議会及び大阪市議会に「教育基本条例」と「職員基本条例」を提出した。
教育基本条例は、今年の6月3日に大阪府議会で成立した「君が代」条例の延長上に出されたものである。「君が代」条例は、府立学校と府下の市町村立学校の教職員に「国歌斉唱時の起立・斉唱」を義務づけた。
教育基本条例では、「5回目の職務命令違反又は同一の職務命令に対する3回目の違反を行った教員等に対する標準的な分限処分は、免職とする」とされている。「君が代」条例に基づく職務命令に従わなかった場合の、処分が定められている。「君が代」強制を徹底し、憲法で保障された「思想及び良心の自由」に違反する内容である。
教育基本条例ではさらに、教員の人事評価、高校の学区撤廃、3年連続で入学定員を満たさなかった場合の統廃合など、教育に市場原理を導入する新自由主義の徹底が目指されている。
職員基本条例では、職員は「準特別職員」「現業職員」「一般職員」の3つに区分される。
準特別職員には、首長の政治的意思を最も忠実に実行するメンバーが*公募によって選ばれ、強力な執行部が結成される。
職員には人事評価が定められるとともに、2回連続最低評価だった場合には、職員は「指導研修」を受け、それでも改善が見られない場合には分限処分が行われる。
「競争と格差」の構造を導入することによって職員の分断化をはかり、首長の政治的意思が末端にまで貫徹する体制が目指されている。
これでは、公務員は地方住民の側に立つ「全体の奉仕者」(憲法15条)ではなく、首長の指示を忠実に実行するだけの存在へと変えられてしまう。
教育基本条例と職員基本条例の内容は、「新自由主義と国家主義」の結合であり、橋下「独裁」を導くものであることは明らかだ(教育基本条例と職員条例について詳しくは、大内裕和「橋下「独裁」は何を奪うか」『世界』2011年11月号を参照)。
◆ なぜ支持
橋下府知事への支持が高いのはなぜか。第一に、2009年に行われた政権交代への人々の期待が裏切られたことがその原因にある。
沖縄における米軍基地問題の解決や派遣労働への規制強化など、人々が期待した政策はほとんど実現していない。
生活保護受給者は今年に入って、59年ぶりに200万人の大台を上回った。構造改革による「貧困と格差」が顕在化したことが政権交代の要因の一つであったにも関わらず、それはむしろ深刻化している。政権交代への期待が裏切られたことが、橋下府知事さらには大阪維新の会=地域政党への期待につながっている。
第二に、大阪の深刻な経済的状況がその背景にある。経済的苦境が続いている日本社会のなかでも、大阪は一層深刻な状況にある。
グローバル資本主義は企業の海外移転を促すことによって、大阪経済の空洞化をもたらした。また、グローバル化にともなう世界都市「東京」の成立によって、これまで大阪にあった企業本社機能の東京移転が進んでいる。東京との経済的格差は着実に広がっており、失業率も高い。
NHKスペシャル「生活保護3兆円の衝撃」でも明らかになったように、大阪市では市民の18人に1人が生活保護を受給し、その数は全国一となっている。深刻化する経済状況と閉塞感の広がりが、それを打破してくれる存在として、橋下府知事への支持を高めている。
◆ 関西財界の期待
橋下府知事は知事を辞任し、11月の大阪市長選挙に立候補する意向を示している。11月27日は大阪府知事・市長のダブル選挙となる可能性が高い。この”大阪秋の陣”へ向けての課題は何であろうか。
大切なことは、橋下府知事を支える階級をしっかりと見定めることだろう。橋下府知事が推進する「大阪都構想」やその後に想定されている「関西州構想」は、自治体リストラと構造改革をドラスティックに推し進める内容であり、関西財界はその実現を強く期待している。
橋下府知事の政治手法はポピュリズムに基づくものであり、既成政党や中央官庁を「敵対勢力」として設定して、大衆扇動を巧みに行ってる。
しかし、橋下政治を支えているのは関西財界であり、そのことを明らすることによって、扇動されている人々に彼の政治の本質やそれがもたらす影響を伝えることが可能となる。閉塞感が広がっているなかで、そのことをどれだけ訴えてるかが課題となる。
また教育基本条例や職員基本条例がもたらす問題点を明らかにすると同時に、この条例の提出がいかなる効果を狙っているかを明確に訴えることが重要である。
教育基本条例と職員基本条例は、教員と公務員への極めて厳しい規律と処分強化の内容となっている。これは、近年の教員バッシングや公務員バッシングの延長上にあると見ることができる。これらが新自由主義の統治手法であることを捉える必要がある。
(続)
おおうち・ひろかず 1967年生。神奈川県出身。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。松山大学人文学部助教授を経て、2007年度より同大学教授。2011年度より中京大学教授。「教育基本法の改悪をとめよう!全国連絡会」の呼びかけ人の一人で、高橋哲哉とともに教育基本法改悪反対運動の中心人物である。「格差社会問題」、「貧困問題」にも詳しい。1990年代末頃から『現代思想』(青土社)等に数々の論文を発表している。
『週刊新社会』(2011/10/25)
橋下氏の発想は新自由主義、その支持層は勝ち組である財界層です。
本当はこれによって一番ひどい目にあうはずの大阪の庶民は、閉そく感を打破してくれるのじゃないかとして、独裁者願望をもたせるという社会心理的な作戦もたくみです。
マスコミの一歩先をいって扇動するのも、テレビメディアが生んだタレント弁護士らしい作戦です。
いや、それだけでなく、大坂のマスコミは在阪財界に押さえられ、橋下歓迎の記事ばかりを垂れ流してきたのです。
本当に残念です。
橋下氏が大阪を支配してしまえば、勝ち組はますます勝ち(橋下氏本人のように)、多くの弱い立場の人々の生活を掘り崩していくことになるのは、小泉元首相の政策とその後の格差社会の深刻化を見ても明らかです。
なによりも怖いのは、橋下氏のほうは自ら独裁者として君臨して、反対する声を圧殺して一元的にやっていこうとすることです。
私は大阪生まれで別なところで仕事をしていますが、本当に大阪の政治があぶない状態になって、心配しています。
政治上の議論はそれぞれに異なる立場の人が是々非々で議論するのが基本です。
橋下氏のくりだす大号令だの司令塔だのという一見いさましい言葉にまどわされては大変ななりません。
こんな恐ろしいことはないです。
時間をかけてじっくりと議論し、多数派であっても、少数派を尊重することで、民主主義の最低ラインが成立するのです。
橋下氏のやり方は少数者・弱者をふみにじるもので、絶対に賛成できません。
大阪以外のところからも、橋下氏と維新の会のやろうとしている独裁強権主義がいかに反民主主義であり、人々の生活を破壊し思想心情を抑圧するものか、ぜひ効果的に発信してほしいです。
大阪に、日本に独裁者はいならいです!