=橋下「独裁」の背景と“大阪秋の陣”の課題(下)=
◇ 分断乗り越え連帯を
◆ 公共部門を削減
1990年代に進められてきた新自由主義は、労働者の低賃金化と不安定化を急速にもたらした。非正規雇用の労働者数は、全体労働者数の35・4%に達している。
こうした状況の固定化・長期化は、労働者のあきらめを助長し、自分よりもめぐまれた人々に対するねたみや嫉妬の感情を強めることにつながりやすい。
教員バッシングや公務員バッシングはこの構造を見すえて、支配層が意識的に行ってきた攻撃である。橋下徹大阪府知事や大阪維新の会は、それを過激に行っている。
橋下知事は、「私の条例に反対する教員や公務員は、住民の皆さんよりも恵まれていますよ」とか、「教員と公務員を厳しく統制することによって、住民の要求に応えますよ」というメッセージを送ることによって、「教員・公務員」と「住民」との分断をはかる。
この分断支配のメカニズムを明らかにし、そして分断を乗り越え、連帯を広げていくことが課題となる。
そのためには第一に、教員と公務員の権利の侵害が彼らだけの問題ではなく、子どもたちや住民全体の権利侵害となる道筋を明らかにすることである。
教育現場や公務員職場における「競争と管理」の強化が、子どもたちや住民の教育権・生存権を危機に追いやるのであり、そのことを粘り強く訴える必要がある。
第二に、教員バッシングや公務員バッシングは、住民全体の生活向上を実現することなしに、橋下府政への支持を調達するための手段となっていることを明らかにすることだ。新自由主義は「貧困と格差」を深刻化させるのだから、生活の安定と向上を求める住民の要望とは対立するのであり、彼らから長期の支持を得ることは困難である。支持を得るためには、よりめぐまれた存在を「敵対勢力」としてあぶり出し、それをバッシングすることで住民の不満を解消する以外の方法がない。
バッシングにあれだけ執着するということは、住民全体の生活向上を進めていく意思がないことを示している。
第三に、教員や公務員といった公共部門への攻撃は、公共部門の一層の削減と増税をもたらすというサイクルを明確化することだ。
激しい攻撃によって、人々の公共部門に対する信頼を低下させ、公共部門の削減が容認されていく。それは公共部門を最も必要とする低所得・低階層の人々に大きなダメージを与えることになる。
また、公共部門の削減は「これだけ無駄を削ったのだから増税を容認してほしい」というメッセージと結びつけられる。
資本の救済や失政の連続によって増加してきた財政赤字の負担が、労働者に押しつけられることになる。
◆ 道州制のねらい
分断支配を乗り越え、連帯を広げていくことに加え、「大阪秋の陣」の結果が、今後の日本社会の行方に大きな影響を与える可能性を認識することが重要だ。
橋下知事が唱える「大阪都構想」やその後に計画されている「関西州構想」は、橋下知事や大阪・関西独自の政策ではない。
「大阪都構想」そして「関西州構想」の延長上には、財界と自民党が重要な政策として進めようとしている「道州制」がある。都道府県から道州へと権限を移行させることで、徹底的な自治体リストラを進め、企業の税負担を減らし、その自由な活動を一層促進することが狙いだ。
企業行動の自由化の一方で、住民の福祉は切り下げられ、生活権や社会権は剥奪されることとなる。
民主党の政策である「地域主権」改革も、その本質は道州制と類似している。
「分権」という名の下に、国家の福祉からの撤退を正当化し、ナショナルミニマムの解体を遂行する。各地域は住民の福祉を向上させるのではなく、新自由主義を積極的に推進する主体へと変貌する。
◆ 進む改憲の道
道州制と地域主権改革は地方に総合行政機能を委ねることで、中央政府は外交・安全保障の役割に特化する。外交・安全保障が国家の専管事項になれば、沖縄米軍基地について沖縄住民が拒否する権利は奪われる。
道州制も地域主権改革も、憲法25条と9条の実質的な改悪を意図しているのである。
橋下知事の「大阪都構想」は、自民党の道州制と民主党の地域主権改革を先取りしたものであり、これを突破口として、憲法の実質的改悪となる二大政党の「地方分権」が進められる危険性がある。
すでにその兆候はあらわれている。自民党の石原伸晃幹事長は、9月24日のテレビ番組で「大阪都構想」に賛同を表明した。橋下知事との今後の連携を意図したものであるだろう。
11月27日のダブル選挙で橋下氏と大阪維新の会が勝利することになれば、自民党だけでなく民主党内の「地域主権」改革派も、橋下氏との連携を探る動きが広がるだろう。
中央政界とのつながりが強くなれば、「大阪都構想」の現実味は増し、その動きは全国化する危険性が高い。大阪をきっかけとして、独裁による民主主義と地方自治の破壊が全国化し、憲法改悪への道が加速化する。
11月27日の選挙は日本社会の重要なターニングポイントとなる。「大阪秋の陣」は、憲法と民主主義にとって極めて重要な闘いだ。
『週刊新社会』(2011/11/1)
◇ 分断乗り越え連帯を
中京大学教授 大内裕和
◆ 公共部門を削減
1990年代に進められてきた新自由主義は、労働者の低賃金化と不安定化を急速にもたらした。非正規雇用の労働者数は、全体労働者数の35・4%に達している。
こうした状況の固定化・長期化は、労働者のあきらめを助長し、自分よりもめぐまれた人々に対するねたみや嫉妬の感情を強めることにつながりやすい。
教員バッシングや公務員バッシングはこの構造を見すえて、支配層が意識的に行ってきた攻撃である。橋下徹大阪府知事や大阪維新の会は、それを過激に行っている。
橋下知事は、「私の条例に反対する教員や公務員は、住民の皆さんよりも恵まれていますよ」とか、「教員と公務員を厳しく統制することによって、住民の要求に応えますよ」というメッセージを送ることによって、「教員・公務員」と「住民」との分断をはかる。
この分断支配のメカニズムを明らかにし、そして分断を乗り越え、連帯を広げていくことが課題となる。
そのためには第一に、教員と公務員の権利の侵害が彼らだけの問題ではなく、子どもたちや住民全体の権利侵害となる道筋を明らかにすることである。
教育現場や公務員職場における「競争と管理」の強化が、子どもたちや住民の教育権・生存権を危機に追いやるのであり、そのことを粘り強く訴える必要がある。
第二に、教員バッシングや公務員バッシングは、住民全体の生活向上を実現することなしに、橋下府政への支持を調達するための手段となっていることを明らかにすることだ。新自由主義は「貧困と格差」を深刻化させるのだから、生活の安定と向上を求める住民の要望とは対立するのであり、彼らから長期の支持を得ることは困難である。支持を得るためには、よりめぐまれた存在を「敵対勢力」としてあぶり出し、それをバッシングすることで住民の不満を解消する以外の方法がない。
バッシングにあれだけ執着するということは、住民全体の生活向上を進めていく意思がないことを示している。
第三に、教員や公務員といった公共部門への攻撃は、公共部門の一層の削減と増税をもたらすというサイクルを明確化することだ。
激しい攻撃によって、人々の公共部門に対する信頼を低下させ、公共部門の削減が容認されていく。それは公共部門を最も必要とする低所得・低階層の人々に大きなダメージを与えることになる。
また、公共部門の削減は「これだけ無駄を削ったのだから増税を容認してほしい」というメッセージと結びつけられる。
資本の救済や失政の連続によって増加してきた財政赤字の負担が、労働者に押しつけられることになる。
◆ 道州制のねらい
分断支配を乗り越え、連帯を広げていくことに加え、「大阪秋の陣」の結果が、今後の日本社会の行方に大きな影響を与える可能性を認識することが重要だ。
橋下知事が唱える「大阪都構想」やその後に計画されている「関西州構想」は、橋下知事や大阪・関西独自の政策ではない。
「大阪都構想」そして「関西州構想」の延長上には、財界と自民党が重要な政策として進めようとしている「道州制」がある。都道府県から道州へと権限を移行させることで、徹底的な自治体リストラを進め、企業の税負担を減らし、その自由な活動を一層促進することが狙いだ。
企業行動の自由化の一方で、住民の福祉は切り下げられ、生活権や社会権は剥奪されることとなる。
民主党の政策である「地域主権」改革も、その本質は道州制と類似している。
「分権」という名の下に、国家の福祉からの撤退を正当化し、ナショナルミニマムの解体を遂行する。各地域は住民の福祉を向上させるのではなく、新自由主義を積極的に推進する主体へと変貌する。
◆ 進む改憲の道
道州制と地域主権改革は地方に総合行政機能を委ねることで、中央政府は外交・安全保障の役割に特化する。外交・安全保障が国家の専管事項になれば、沖縄米軍基地について沖縄住民が拒否する権利は奪われる。
道州制も地域主権改革も、憲法25条と9条の実質的な改悪を意図しているのである。
橋下知事の「大阪都構想」は、自民党の道州制と民主党の地域主権改革を先取りしたものであり、これを突破口として、憲法の実質的改悪となる二大政党の「地方分権」が進められる危険性がある。
すでにその兆候はあらわれている。自民党の石原伸晃幹事長は、9月24日のテレビ番組で「大阪都構想」に賛同を表明した。橋下知事との今後の連携を意図したものであるだろう。
11月27日のダブル選挙で橋下氏と大阪維新の会が勝利することになれば、自民党だけでなく民主党内の「地域主権」改革派も、橋下氏との連携を探る動きが広がるだろう。
中央政界とのつながりが強くなれば、「大阪都構想」の現実味は増し、その動きは全国化する危険性が高い。大阪をきっかけとして、独裁による民主主義と地方自治の破壊が全国化し、憲法改悪への道が加速化する。
11月27日の選挙は日本社会の重要なターニングポイントとなる。「大阪秋の陣」は、憲法と民主主義にとって極めて重要な闘いだ。
『週刊新社会』(2011/11/1)
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