たんぽぽ舎です。【TMM:No3044】地震と原発事故情報
▼ 「事故の被災者への賠償と生活補償を中心」におくべき
依然として「絵に描いた餅」とても実現出来ない再建計画
東京電力(以下、東電)と原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下、機構)は3月22日に「新々総合特別事業計画」(以下、「新新総特」)の骨子を発表した。
東電による経営改革と、それにより捻出される「利益」を福島復興や廃炉費用などに充てることを意図したものとされるが、実態は国の原子力推進政策に東電の資金を投じさせることと東電の経営破たんを回避することを目的としたものである。
破たん処理をしないとしても、最低限「事故の被災者への賠償と生活補償を中心」におき、「脱原発経営の方針」を掲げるべきところ、依然として「絵に描いた餅」の、とても実現出来ない再建計画である。
1.柏崎刈羽原発の再稼働頼み
これまでに柏崎刈羽原発再稼働に投じた6800億円を回収するだけでも7年かかる
年間1000億円の利益はどのような精査をしているのか分からない
計算根拠を示すべき
全体を通して、大きな「期待感」をもって描かれているのは「柏崎刈羽原発の再稼働」と原子力への再進出だ。
福島第一原発事故前は東電の原発は1730.8万キロワットで、おおむね全国の原発設備の3分の1を有していた。もちろん日本最大、世界でも単独の電力会社としては最大の原発保有だった。
現在は、再稼働申請をしている原発は柏崎刈羽原発6、7号機の2基だけ。271.2万キロワットである。この2基を動かせば年間1000億円(1基500億円の2基分)の利益があるとするが、これまでに柏崎刈羽原発再稼働に投じた6800億円を回収するだけでも7年かかる計算だから、寄与できるには、計画通りに運転したとしても8年後だ。
「新新総特」は一体何時までの経営再建計画なのか。
当然、年間5000億円かかる(掛ける?)とする廃炉費用には8年後にならないと充当できない計算だ。
利益を生む前提についても大きな疑問がある。
年間1000億円の利益は、売り上げ電力料金から必要経費を除いたものだから、電力単価が下がる(売電価格が下がる)か、あるいは必要経費が膨らめば相対的に利益が減少する。ところが年間1000億円についてはどのような精査をしているのか分からない。計算根拠を示すべきだ。
新総特からの大きな変化として電力小売り自由化が進む中で、経営に大きな影響が出ていることを環境変化として問題視しているのだから、原発が生むとされる利益も大きな影響を受けるはずだ。
2.安全の死角
「再稼働3年後までにメンテナンス費用の3割削減」
原発が従来の独占体制下のように、総括原価方式で利益を計算してきた時代とは異なり、利益が計算できない点については問題として認識をしていることが読み取れる。
それへの対応が「再稼働3年後までにメンテナンス費用の3割削減」だ。しかしこれは大変大きな危険を抱えることになる。
新造する原発ならば設計段階からメンテナンスをしやすいよう工夫をこらして、時間や経費を圧縮することは出来るかも知れないが、完成した原発でそれをすることは極めて困難で危険でもある。
メンテナンス費用の削減をする場合、最初にメスを入れられるのは人件費だと思われる。
しかし、被曝労働である原発の作業は「人海戦術」をするしかない場面がある。簡単に人減らしなど出来るはずはないし、強行したら労働者の危険度は急激に上がる。
資機材の調達費用を削減する場合、往々にしてあるのは「安かろう悪かろう」製品を使うこと。ロケット開発で、仕様を細かく決めた特注品では高く付くので一般汎用品を使い失敗した例がある。原子力や軍需品に特注品を使うのは意味のあることで、簡単に汎用製品に取り替えがきくわけではない。
費用を圧縮したいのならば、まず柏崎刈羽原発に投じてきた6800億円を精査すべきだろう。例えば免震重要棟が緊急時に使えないため、緊対所設置場所を最初は3号機に、さらにそれも使えないため5号機にと、二転三転させてきた費用など、無駄以外の何物でもない。
最初に免震重要棟を正しく基準地震動の揺れに耐えられる設備に改築していれば良かっただけだ。
防潮堤の液状化対策の失敗といい、東電は場当たり対応で、無駄なコストの連続だ。まずこの無駄を無くすことが先決で、次の段階のコストダウンを取り組める状況ではない。
原子力全体についてはこのような記述となっている。
「原子力事業の投資・費用について、その構成内容を徹底的に精査し、真に安全性の向上に資するところに集中的に配分し、安全性の確保を前提として生産性の倍増を図る。」
生産性の倍増は、既に述べた観点から無茶な方針だが、メンテナンスを行う事業を再編合理化することとセットだと思われる。
日立の会長だった人物が新しく会長として就任することが報じられていることからも、メーカーの再編と一体となったものと思われる。東芝の破たん危機が一つのきっかけとなっている。
この方針での問題点は、無駄なコストの最たるものが原発の維持管理費用であるとの認識の欠如だ。燃料冷却だけで1600億円もの費用がかかっている福島第二、動かせるはずもない柏崎刈羽原発の再稼働費用などをまず圧縮すべきは、「新新総特」でも指摘できる。
3.「世界最高水準の安全」とは何か
2008年頃から東電内部で15.7m級津波の襲来を
予見できる状態にありながら、対策を先送り
さらに東電は原子力事業について「原子力事業の理念は『地元本位・安全最優先』。福島原子力事故を深く反省し、安全性を絶えず問い続ける企業文化、責任感を確立する」と記述する。
しかし、言っていることとやっていることは真逆だ。
事故直後に当時の勝俣会長は「異常な天災地変として原子力損害責任賠償法第三条ただし書きに規定する『免責』に当たる、との認識」を持っていた。
結果的にそれを主張するまでもなくゴルフ場経営会社から起こされた賠償請求訴訟において「免責」条項適用を裁判所に却下されており、いまさらそんな主張は出来ない。
実際には2008年頃から東電内部で15.7メートル級津波の襲来を予見できる状態にありながら、対策を先送りし続けたことに対し「深く反省」どころか開き直った主張を繰り返しており、株主代表訴訟でも、建設時点から福島第一原発事故が発生するまでのあいだ、それぞれの時点において津波対策を行ってきたと主張し続けている。
これに対しては、別の訴訟ではあるが、事故被災者の損害賠償請求訴訟の前橋地方裁判所判決では「十分な対策が成されてきたとは認めがたい」とし、「東電は15.7mの津波の到来を遅くとも2002年には予見できた。2008年には実際に予見していた。東電が津波対策を講じていれば、原発事故は発生しなかった。国も津波到来を予見できる状況であったのに、事故を未然に防ぐための命令を東電に出さなかった。」と、国と東電の責任を認定している。
反省がカタチばかりなのは、その後の補償打ち切りや区域外避難者への賠償拒否、原発ADRによる仲裁裁定さえ拒否する姿勢からも明らかだ。
その上で「世界最高水準の安全」と言われても、何を言っているのか不明と言わなければならない。
では、柏崎刈羽原発の対策はどうか。
4.免震重要棟問題の本質
緊急時に使い物にならない免震重要棟をそのままにして
再稼働申請をしたことだけで地元への背信行為
免震棟に正規の耐震性がないことが明らかになった事件について、「新新総特」では以下のように記述している。
「免震重要棟の耐震性に関し、原子力規制委員会及び地元への説明が至らず信頼を損ねたことを反省し、組織体質・ガバナンスの向上を図る観点から、その本質的な改善を進めるとともに事実を丁寧に説明していくことで、信頼の回復に努めていく。」
緊急時に使い物にならない免震重要棟をそのままにして再稼働申請をしたことだけで地元への背信行為であり、規制逃れといった動機も見えてくる。
規制庁の審査中に免震棟の性能アップを図り、結果として基準地震動に耐えうる免震装置に取り替えて規制基準をクリアすれば良いと考えたのであろう。
しかし失敗したために「実は免震棟は使えない」と言い出すこともできず、途中から3号機、後に5号機の建屋に緊対所を設けることでごまかそうとした。
説明の不自然さは「隠ぺい」と捉えると実にわかりやすい。「事実を丁寧に説明」するというのは、事実(情報)を隠さず明らかにする(公開)ことでしかない。「白抜き黒枠」文書を公開しているうちは、全く信用できない。
また、「本質的改善」するには、基準地震動に基づき全ての構造物を(いわゆる耐震Bクラス設備も含め)耐震性のある構造にする必要がある。
地震で破壊された外部電源の脆弱性について震災前から繰り返し市民が指摘したのに、これを受け入れてこなかった姿勢を改めることが先だ。
(「下」につづく)
▼ 「事故の被災者への賠償と生活補償を中心」におくべき
依然として「絵に描いた餅」とても実現出来ない再建計画
山崎久隆(たんぽぽ舎)
東京電力(以下、東電)と原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下、機構)は3月22日に「新々総合特別事業計画」(以下、「新新総特」)の骨子を発表した。
東電による経営改革と、それにより捻出される「利益」を福島復興や廃炉費用などに充てることを意図したものとされるが、実態は国の原子力推進政策に東電の資金を投じさせることと東電の経営破たんを回避することを目的としたものである。
破たん処理をしないとしても、最低限「事故の被災者への賠償と生活補償を中心」におき、「脱原発経営の方針」を掲げるべきところ、依然として「絵に描いた餅」の、とても実現出来ない再建計画である。
1.柏崎刈羽原発の再稼働頼み
これまでに柏崎刈羽原発再稼働に投じた6800億円を回収するだけでも7年かかる
年間1000億円の利益はどのような精査をしているのか分からない
計算根拠を示すべき
全体を通して、大きな「期待感」をもって描かれているのは「柏崎刈羽原発の再稼働」と原子力への再進出だ。
福島第一原発事故前は東電の原発は1730.8万キロワットで、おおむね全国の原発設備の3分の1を有していた。もちろん日本最大、世界でも単独の電力会社としては最大の原発保有だった。
現在は、再稼働申請をしている原発は柏崎刈羽原発6、7号機の2基だけ。271.2万キロワットである。この2基を動かせば年間1000億円(1基500億円の2基分)の利益があるとするが、これまでに柏崎刈羽原発再稼働に投じた6800億円を回収するだけでも7年かかる計算だから、寄与できるには、計画通りに運転したとしても8年後だ。
「新新総特」は一体何時までの経営再建計画なのか。
当然、年間5000億円かかる(掛ける?)とする廃炉費用には8年後にならないと充当できない計算だ。
利益を生む前提についても大きな疑問がある。
年間1000億円の利益は、売り上げ電力料金から必要経費を除いたものだから、電力単価が下がる(売電価格が下がる)か、あるいは必要経費が膨らめば相対的に利益が減少する。ところが年間1000億円についてはどのような精査をしているのか分からない。計算根拠を示すべきだ。
新総特からの大きな変化として電力小売り自由化が進む中で、経営に大きな影響が出ていることを環境変化として問題視しているのだから、原発が生むとされる利益も大きな影響を受けるはずだ。
2.安全の死角
「再稼働3年後までにメンテナンス費用の3割削減」
原発が従来の独占体制下のように、総括原価方式で利益を計算してきた時代とは異なり、利益が計算できない点については問題として認識をしていることが読み取れる。
それへの対応が「再稼働3年後までにメンテナンス費用の3割削減」だ。しかしこれは大変大きな危険を抱えることになる。
新造する原発ならば設計段階からメンテナンスをしやすいよう工夫をこらして、時間や経費を圧縮することは出来るかも知れないが、完成した原発でそれをすることは極めて困難で危険でもある。
メンテナンス費用の削減をする場合、最初にメスを入れられるのは人件費だと思われる。
しかし、被曝労働である原発の作業は「人海戦術」をするしかない場面がある。簡単に人減らしなど出来るはずはないし、強行したら労働者の危険度は急激に上がる。
資機材の調達費用を削減する場合、往々にしてあるのは「安かろう悪かろう」製品を使うこと。ロケット開発で、仕様を細かく決めた特注品では高く付くので一般汎用品を使い失敗した例がある。原子力や軍需品に特注品を使うのは意味のあることで、簡単に汎用製品に取り替えがきくわけではない。
費用を圧縮したいのならば、まず柏崎刈羽原発に投じてきた6800億円を精査すべきだろう。例えば免震重要棟が緊急時に使えないため、緊対所設置場所を最初は3号機に、さらにそれも使えないため5号機にと、二転三転させてきた費用など、無駄以外の何物でもない。
最初に免震重要棟を正しく基準地震動の揺れに耐えられる設備に改築していれば良かっただけだ。
防潮堤の液状化対策の失敗といい、東電は場当たり対応で、無駄なコストの連続だ。まずこの無駄を無くすことが先決で、次の段階のコストダウンを取り組める状況ではない。
原子力全体についてはこのような記述となっている。
「原子力事業の投資・費用について、その構成内容を徹底的に精査し、真に安全性の向上に資するところに集中的に配分し、安全性の確保を前提として生産性の倍増を図る。」
生産性の倍増は、既に述べた観点から無茶な方針だが、メンテナンスを行う事業を再編合理化することとセットだと思われる。
日立の会長だった人物が新しく会長として就任することが報じられていることからも、メーカーの再編と一体となったものと思われる。東芝の破たん危機が一つのきっかけとなっている。
この方針での問題点は、無駄なコストの最たるものが原発の維持管理費用であるとの認識の欠如だ。燃料冷却だけで1600億円もの費用がかかっている福島第二、動かせるはずもない柏崎刈羽原発の再稼働費用などをまず圧縮すべきは、「新新総特」でも指摘できる。
3.「世界最高水準の安全」とは何か
2008年頃から東電内部で15.7m級津波の襲来を
予見できる状態にありながら、対策を先送り
さらに東電は原子力事業について「原子力事業の理念は『地元本位・安全最優先』。福島原子力事故を深く反省し、安全性を絶えず問い続ける企業文化、責任感を確立する」と記述する。
しかし、言っていることとやっていることは真逆だ。
事故直後に当時の勝俣会長は「異常な天災地変として原子力損害責任賠償法第三条ただし書きに規定する『免責』に当たる、との認識」を持っていた。
結果的にそれを主張するまでもなくゴルフ場経営会社から起こされた賠償請求訴訟において「免責」条項適用を裁判所に却下されており、いまさらそんな主張は出来ない。
実際には2008年頃から東電内部で15.7メートル級津波の襲来を予見できる状態にありながら、対策を先送りし続けたことに対し「深く反省」どころか開き直った主張を繰り返しており、株主代表訴訟でも、建設時点から福島第一原発事故が発生するまでのあいだ、それぞれの時点において津波対策を行ってきたと主張し続けている。
これに対しては、別の訴訟ではあるが、事故被災者の損害賠償請求訴訟の前橋地方裁判所判決では「十分な対策が成されてきたとは認めがたい」とし、「東電は15.7mの津波の到来を遅くとも2002年には予見できた。2008年には実際に予見していた。東電が津波対策を講じていれば、原発事故は発生しなかった。国も津波到来を予見できる状況であったのに、事故を未然に防ぐための命令を東電に出さなかった。」と、国と東電の責任を認定している。
反省がカタチばかりなのは、その後の補償打ち切りや区域外避難者への賠償拒否、原発ADRによる仲裁裁定さえ拒否する姿勢からも明らかだ。
その上で「世界最高水準の安全」と言われても、何を言っているのか不明と言わなければならない。
では、柏崎刈羽原発の対策はどうか。
4.免震重要棟問題の本質
緊急時に使い物にならない免震重要棟をそのままにして
再稼働申請をしたことだけで地元への背信行為
免震棟に正規の耐震性がないことが明らかになった事件について、「新新総特」では以下のように記述している。
「免震重要棟の耐震性に関し、原子力規制委員会及び地元への説明が至らず信頼を損ねたことを反省し、組織体質・ガバナンスの向上を図る観点から、その本質的な改善を進めるとともに事実を丁寧に説明していくことで、信頼の回復に努めていく。」
緊急時に使い物にならない免震重要棟をそのままにして再稼働申請をしたことだけで地元への背信行為であり、規制逃れといった動機も見えてくる。
規制庁の審査中に免震棟の性能アップを図り、結果として基準地震動に耐えうる免震装置に取り替えて規制基準をクリアすれば良いと考えたのであろう。
しかし失敗したために「実は免震棟は使えない」と言い出すこともできず、途中から3号機、後に5号機の建屋に緊対所を設けることでごまかそうとした。
説明の不自然さは「隠ぺい」と捉えると実にわかりやすい。「事実を丁寧に説明」するというのは、事実(情報)を隠さず明らかにする(公開)ことでしかない。「白抜き黒枠」文書を公開しているうちは、全く信用できない。
また、「本質的改善」するには、基準地震動に基づき全ての構造物を(いわゆる耐震Bクラス設備も含め)耐震性のある構造にする必要がある。
地震で破壊された外部電源の脆弱性について震災前から繰り返し市民が指摘したのに、これを受け入れてこなかった姿勢を改めることが先だ。
(「下」につづく)
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