◎ 国民も企業も格差拡大
株主配当は4倍に
労働分配率は5%も減
年明けの株式市場は、サブプライム禍の拡大によって大発会から連日のように下落、1月22日には753円近い下落で年初来2700円の下落、東証株価は1万2573円となった。一方で円高が一段と進行、日本経済は再び長いトンネルの入り口に差しかかったようだ。
そうしたなか、食品や石油の値上がり、格差の進行によって勤労者の生活はますます厳しさを加えている。立教大学経済学部教授の名和隆央さんに日本社会の格差の現状などを分析してもらった。
小泉内閣は「改革なくして成長なし」をスローガンとして「構造改革」路線を推し進めた。安倍内閣では、それを引き継ぎ「成長戦略」路線を打ち出すとともに教育や思想の国家主義的統制の色彩を強めた。
構造改革とは、社会的規制を緩和し経済資源を効率的な産業分野に集中すれば経済が成長し、多数の国民もその恩恵に与れるというものである。
だが、その結果、日本経済は景気が回復し国民生活は改善されたのであろうか。
◎ 企業の経常利益率は資本金で大きな格差
まず、構造改革の「成果」がどうなっているか、「法人企業統計調査」に基づいて事実を確認しておこう。
2005年の全産業の売上高は1508兆円、付加価値額は281兆円、経常利益は51兆6920億円となっている。
95年と比較すると売上高は23兆円、1・5%しか増えていない。
経常利益率を資本金別に見ると、10億円以上の大企業が5・2%増、1億円~10億円の中堅企業が3・O%、1000万円~1億円の中小企業が2・4%、1000万円未満の零細企業がO・9%と大きな格差がある。
非正規を含む全従業員給与の平均は351万円であり、ピーク時の97年から1割下落している。
従業員給与を規模別に見ると、大企業では587万円、中堅企業では415万円、中小零細企業では284万円と2倍以上の格差がある。
◎ 賃金削って内部留保 利益率は過去最高に
付加価値額のうちの人件費比率を表わす労働分配率は、01年の75%から05年の70%に低下している。
それとは逆に、企業の営業純益は7%から13%に増大しているのである。
民間企業の設備投資は38兆5501億円となっているが、資金調達は74兆5814億円と前年度を26兆9060億円も上回っている。
内訳を見ると内部調達(利益の内部留保や減価償却費)の101兆円に対し、外部調達(株式の増資や借入金等)は26兆円のマイナスである。
企業は高収益により借入金の返済を進めており、資金増加額の大半は内部留保によるものであった。企業部門は余剰資金を蓄積しているのだ。
さらに経常利益は過去10年間で2倍に増加しているが、株主資本主義の名のもとに株主への配当金は4倍に増加している。このように構造改革が強行されるなかで、企業の利益率は回復し過去最高を記録している一方、従業員の給与水準が低下し、所得格差は拡大し続けているのである。
◎ 日本は21世紀に入り「対外債権大国」に
日本経済を国際収支の面で見ると、07年度前半の経常収支は12・4兆円の黒字であり、資本収支は10・6兆円の赤字であった。
資本収支の赤字は、アメリカやアジアヘの海外投資の増大を意味している。
日本の対外純資産は06年度末で215兆円に達し、世界最大の純資産国となっている。
海外投資に伴う受取収益も増加しており、所得収支の黒字は8・2兆円に上っている。
日本は、21世紀に入り「対外債権大国」に成長・転化しているのだ。だが、超低金利に苦しめられている国民のだれがその恩恵に与っているのだろうか。
また、貿易収支の黒字も半期で過去最高の6・3兆円に達している。
貿易収支の黒字拡大は企業の国際競争力が高まっているにもかかわらず、構造改革によって経済格差が拡大、消費需要が一向に盛り上がらないことも起因しているといえる。
07年夏からのサブプライム危機をきっかけに、アメリカは経常収支の赤字、財政収支の赤字だけではなく、家計部門も過剰債務を抱えており「三つ子の赤字」に陥っていることが明るみに出た。
◎ サブプライム危機で外需依存行き詰まり
アメリカでは90年から07年までに所得水準が2・4倍に上昇したが、家計部門の債務残高は3・7倍に増加している。過剰債務を解消するためには、家計の消費を抑制し貯蓄率を高めねばならないのであり、08年の景気後退が不可避と見られている。
日本は構造改革によって国際競争力を強化し、外需依存型の経済成長を図ってきた。07年度上期の成長率は1・7%となったが、外需に6割を依存している。
政府の「成長戦略」路線もサブプライム危機で行き詰まりに陥っている。こうした閉塞状況を打ち破るには、格差のない安定した生活を可能とする社会構造への転換が必要なのだ。
なわ・たかお 52年生まれ。立教大学経済学部経済政策学科教授、経済学科長。主な研究テーマは日本の生産技術、産業組織。著書に『経済入門コース経済の不思議に答える』、論文多数。
『週刊新社会』(2008/1/29【経済時論】)
株主配当は4倍に
労働分配率は5%も減
立教大学教授 名和隆央
年明けの株式市場は、サブプライム禍の拡大によって大発会から連日のように下落、1月22日には753円近い下落で年初来2700円の下落、東証株価は1万2573円となった。一方で円高が一段と進行、日本経済は再び長いトンネルの入り口に差しかかったようだ。
そうしたなか、食品や石油の値上がり、格差の進行によって勤労者の生活はますます厳しさを加えている。立教大学経済学部教授の名和隆央さんに日本社会の格差の現状などを分析してもらった。
小泉内閣は「改革なくして成長なし」をスローガンとして「構造改革」路線を推し進めた。安倍内閣では、それを引き継ぎ「成長戦略」路線を打ち出すとともに教育や思想の国家主義的統制の色彩を強めた。
構造改革とは、社会的規制を緩和し経済資源を効率的な産業分野に集中すれば経済が成長し、多数の国民もその恩恵に与れるというものである。
だが、その結果、日本経済は景気が回復し国民生活は改善されたのであろうか。
◎ 企業の経常利益率は資本金で大きな格差
まず、構造改革の「成果」がどうなっているか、「法人企業統計調査」に基づいて事実を確認しておこう。
2005年の全産業の売上高は1508兆円、付加価値額は281兆円、経常利益は51兆6920億円となっている。
95年と比較すると売上高は23兆円、1・5%しか増えていない。
経常利益率を資本金別に見ると、10億円以上の大企業が5・2%増、1億円~10億円の中堅企業が3・O%、1000万円~1億円の中小企業が2・4%、1000万円未満の零細企業がO・9%と大きな格差がある。
非正規を含む全従業員給与の平均は351万円であり、ピーク時の97年から1割下落している。
従業員給与を規模別に見ると、大企業では587万円、中堅企業では415万円、中小零細企業では284万円と2倍以上の格差がある。
◎ 賃金削って内部留保 利益率は過去最高に
付加価値額のうちの人件費比率を表わす労働分配率は、01年の75%から05年の70%に低下している。
それとは逆に、企業の営業純益は7%から13%に増大しているのである。
民間企業の設備投資は38兆5501億円となっているが、資金調達は74兆5814億円と前年度を26兆9060億円も上回っている。
内訳を見ると内部調達(利益の内部留保や減価償却費)の101兆円に対し、外部調達(株式の増資や借入金等)は26兆円のマイナスである。
企業は高収益により借入金の返済を進めており、資金増加額の大半は内部留保によるものであった。企業部門は余剰資金を蓄積しているのだ。
さらに経常利益は過去10年間で2倍に増加しているが、株主資本主義の名のもとに株主への配当金は4倍に増加している。このように構造改革が強行されるなかで、企業の利益率は回復し過去最高を記録している一方、従業員の給与水準が低下し、所得格差は拡大し続けているのである。
◎ 日本は21世紀に入り「対外債権大国」に
日本経済を国際収支の面で見ると、07年度前半の経常収支は12・4兆円の黒字であり、資本収支は10・6兆円の赤字であった。
資本収支の赤字は、アメリカやアジアヘの海外投資の増大を意味している。
日本の対外純資産は06年度末で215兆円に達し、世界最大の純資産国となっている。
海外投資に伴う受取収益も増加しており、所得収支の黒字は8・2兆円に上っている。
日本は、21世紀に入り「対外債権大国」に成長・転化しているのだ。だが、超低金利に苦しめられている国民のだれがその恩恵に与っているのだろうか。
また、貿易収支の黒字も半期で過去最高の6・3兆円に達している。
貿易収支の黒字拡大は企業の国際競争力が高まっているにもかかわらず、構造改革によって経済格差が拡大、消費需要が一向に盛り上がらないことも起因しているといえる。
07年夏からのサブプライム危機をきっかけに、アメリカは経常収支の赤字、財政収支の赤字だけではなく、家計部門も過剰債務を抱えており「三つ子の赤字」に陥っていることが明るみに出た。
◎ サブプライム危機で外需依存行き詰まり
アメリカでは90年から07年までに所得水準が2・4倍に上昇したが、家計部門の債務残高は3・7倍に増加している。過剰債務を解消するためには、家計の消費を抑制し貯蓄率を高めねばならないのであり、08年の景気後退が不可避と見られている。
日本は構造改革によって国際競争力を強化し、外需依存型の経済成長を図ってきた。07年度上期の成長率は1・7%となったが、外需に6割を依存している。
政府の「成長戦略」路線もサブプライム危機で行き詰まりに陥っている。こうした閉塞状況を打ち破るには、格差のない安定した生活を可能とする社会構造への転換が必要なのだ。
なわ・たかお 52年生まれ。立教大学経済学部経済政策学科教授、経済学科長。主な研究テーマは日本の生産技術、産業組織。著書に『経済入門コース経済の不思議に答える』、論文多数。
『週刊新社会』(2008/1/29【経済時論】)
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