《教科書ネット21ニュースから》
◆ 神戸市の教育と教員間の暴言・暴行問題
~市立東須磨小の事例を中心に考える
神戸市(人口約152万人)は昨年、1868年の兵庫港開港以来150年を迎えるなど、古くから海外へも開かれたまち、開放的な文化と歴史のまち、ハイカラなまちとして知られる。それゆえ、日本で初めての○○というものがたくさんある。コーヒー・ウスターソース・ジャズ・サッカー等々である。海(港)、山、などにも恵まれた温暖な気候で、神戸は観光客などが日本で住みたい都市として札幌などとともにトップランクに数えるほどである。
こうした雰囲気のある市内の小学校で、今回とんでもない事件が発生した。しかも筆者が住居を構えている目の前にある小学校で起こったもので、教員間の深刻な暴言・暴行問題(“いじめ”事件といわれるが、その範囲を超えていると考えられる事態)である。
問題の市立東須磨小学校(仁王美貴〈におう・みき〉校長、教員数約30、児童数約520)は須磨区にある130年近くの歴史を有する学校である。ここでは、個別の観点から見た本件の概要を紹介し、ともに考える素材を提供したい。
◆ 問題とされる事件発端の概要
同小学校の40歳代の女性教諭A並びに30歳代の3人の男性教諭B、C及びDの計4教諭が、2017年新任の男性教諭E(25)を、この2年近く集団で“いじめ”ていた事件が『神戸新聞』2019年10月4日号のスクープ記事で発覚した。
その記事は「教員4人が同僚いじめ神戸・東須磨小20代男性に昨年から市教委処分検討 羽交い絞め目に激辛カレーわいせつLINE送信強要」と題するもので、世間に大きな衝撃を与えた。
“いじめ”といえば、通常、子ども相互間のものを指すが、本件はそうではなく“いじめ”撲滅の先頭に立つべき教師間のもので、かつ集団での事件であったので、一層注目を浴びることとなった。
また、その後、こうした情景を関係教師が撮影した動画の存在が明らかとなり、教育界のみならず、広く社会より注目を浴びることになった。被害教員であるE教諭は本年9月2日より病気療養中である。
◆ 事件に関連した学校の対応
学校は本年10月3日及び10月16日の2度にわたり保護者会を開催し、席上、校長が加害教員からのメッセージを紹介したものの、加害教員自身が子ども・保護者の前で直接謝罪することはなかった(今日まで同様)。加害教員は、10月1日より事実上、自宅謹慎となっている。
これは、子どもからみれば、突然の雲隠れの状況であり、普段「良い先生」との評判を得ていた加害教員及び学校に対する不信感が一気に深まっていくこととなった。
学校側は、保護者からの質問に対して十分な情報提供をしないまま、基本的には教育委員会が設置した調査委員会の報告(12月予定)を待ってから、との態度であり、学校・教育委員会による積極的な問題解決の姿勢を示すことに欠ける状況であった。
◆ 地域住民としての対応
筆者は自宅玄関から東須磨小全体を見渡せるマンションに住んでおり、この小学校に通う子どもたちに毎日接している。そこで、このマンションに居住する保護者・住民に呼びかけて話し合いを重ね、提言書を提出することとした。
この度の東須磨小をめぐる驚くべき事態に深く心を痛めている保護者の数、また子どもたちの受けている精神的なショックは、想像以上のもので、こうした事態を一刻も早く解決し、教育本来の望ましい在り方に基づく学校を取り戻し、健全な教育を回復し力強く推進していく必要性を感じたのである。
私たちは、今後の教育・学校の在り方について、真剣に考えた結果、私たちの考える東須磨小の抜本的な改革案を急ぎ提案し、可能ならばと、その実施・実現に向けて、関係部局等(教育委員会、当該小学校、市長)に提言した。
この「緊急改革提言」は次の4本柱の実現を訴えるものである。
古くからの住民の中には、同小学校の卒業生もいて、「校名の変更はどうも…」という意見も聞かれた。しかし、著名な学者で教育関係の学会の会長をも務めた研究者から次のようなコメントが寄せられたことは、私たち提言者にとってはうれしい一幕であった。
「…それにしても、近隣のマンション居住者有志(住民)が、こうしたアクションを積極的に提起・実行されたことにも驚くとともに、ある感動を覚えました。教育における住民自治の一つのあり方であるとも思いました」
◆ 教育委員会の対応
神戸市教育委員会は本年9月2日、E教諭の家族の訴えにより調査を開始し、10月1日より加害教員4人を東須磨小の公務より外し、有給休暇扱い(事実上の自宅謹慎)とする措置をとった。
10月7日には、教育委員会の指導主事F及びG並びに市内の小学校教諭Hを東須磨小教諭に任命するとともに、教育委員会課長Iを東須磨小担当課長(兼任)に発令した。
また問題となった事件の現場である家庭科教室の改装のほか、カウンセラー1名の常駐を図ることなどの関運対策措置を講じている。
◆ 神戸市・市長部局の対応
久元喜造市長は事件後の10月17日、総合教育会議を開催し、「事案は教委のガバナンス欠如によるもの」との認識を示すとともに、10月24日の定例記者会見で市長部局に教育行政支援課新設、教育委員会に改革特命担当課長配置することを発表(ともに11.1付)するとともに、市民からの批判が多いとして、有給休暇中の加害教員への給与支給停止可能条例案を市議会に提案すると発表した。
こうした措置を実施するため、職員の分限・懲戒条例改正案を市議会に提出した。一部会派の反対があったが、条例案は圧倒的多数で可決成立し、直ちに10月30日公布・施行された。
◆ 加害教員への処分についての問題
神戸市教育委員会の職員分限懲戒審査会は、本件条例施行直後の10月31日、加害教員への「本件改正条例適用は不相当で、第三者委員会報告後、速やかに懲戒処分をされるべきである」とのコメントをまとめたが、その直後に開催された臨時の教育委員会会議は、加害教員4人への一括処分に慎重意見もあったものの、最終的には全員一致で分限休職処分とし、同日からの給与差し止めを決定した。
久元市長は、コメントを発表し、「審査会の判断は法律及び改正条例の解釈として適切かどうか疑問である」と主張し、「どうしても(条例改正が)必要だった」「審査会の見解は適当ではない」と改めて強調した。
◆ 処分の妥当性判断の適否と今後の方向
市民感情を背景とした市議会の条例改正、市長のやや強引ともいえる主張は、法不遡及の原則、程度の差がある加害教員4人の行為についての「一括処分」など、教育界では世論に押された「泥縄式」との批判も聞かれる。
また、加害教員の1人は11月8日、市教委人事委員会に「分限休職処分」の取り消しを求める審査請求書を提出しているなど、この処分については、問題山積の状況にある。
また、今回の問題発生の要因の一つともいわれている人事異動ルールであるいわゆる「神戸方式」の2022年春からの廃止問題や、市内の市立学校長約250人及び市教委幹部ら約70人の冬のボーナス増額分(計約1000万円)見送り問題も現在議論の途中にある。
なお、第三者委員会による報告書が今月(12月)中に公表される予定であり、基本的にはこの報告書の内容にそった加害教員の処分が行われる。
『子どもと教科書全国ネット21NEWS 129号』(2019年12月)
◆ 神戸市の教育と教員間の暴言・暴行問題
~市立東須磨小の事例を中心に考える
浪本勝年(なみもとかつとし・子どもと教科書全国ネット21代表委員・立正大学名誉教授)
神戸市(人口約152万人)は昨年、1868年の兵庫港開港以来150年を迎えるなど、古くから海外へも開かれたまち、開放的な文化と歴史のまち、ハイカラなまちとして知られる。それゆえ、日本で初めての○○というものがたくさんある。コーヒー・ウスターソース・ジャズ・サッカー等々である。海(港)、山、などにも恵まれた温暖な気候で、神戸は観光客などが日本で住みたい都市として札幌などとともにトップランクに数えるほどである。
こうした雰囲気のある市内の小学校で、今回とんでもない事件が発生した。しかも筆者が住居を構えている目の前にある小学校で起こったもので、教員間の深刻な暴言・暴行問題(“いじめ”事件といわれるが、その範囲を超えていると考えられる事態)である。
問題の市立東須磨小学校(仁王美貴〈におう・みき〉校長、教員数約30、児童数約520)は須磨区にある130年近くの歴史を有する学校である。ここでは、個別の観点から見た本件の概要を紹介し、ともに考える素材を提供したい。
◆ 問題とされる事件発端の概要
同小学校の40歳代の女性教諭A並びに30歳代の3人の男性教諭B、C及びDの計4教諭が、2017年新任の男性教諭E(25)を、この2年近く集団で“いじめ”ていた事件が『神戸新聞』2019年10月4日号のスクープ記事で発覚した。
その記事は「教員4人が同僚いじめ神戸・東須磨小20代男性に昨年から市教委処分検討 羽交い絞め目に激辛カレーわいせつLINE送信強要」と題するもので、世間に大きな衝撃を与えた。
“いじめ”といえば、通常、子ども相互間のものを指すが、本件はそうではなく“いじめ”撲滅の先頭に立つべき教師間のもので、かつ集団での事件であったので、一層注目を浴びることとなった。
また、その後、こうした情景を関係教師が撮影した動画の存在が明らかとなり、教育界のみならず、広く社会より注目を浴びることになった。被害教員であるE教諭は本年9月2日より病気療養中である。
◆ 事件に関連した学校の対応
学校は本年10月3日及び10月16日の2度にわたり保護者会を開催し、席上、校長が加害教員からのメッセージを紹介したものの、加害教員自身が子ども・保護者の前で直接謝罪することはなかった(今日まで同様)。加害教員は、10月1日より事実上、自宅謹慎となっている。
これは、子どもからみれば、突然の雲隠れの状況であり、普段「良い先生」との評判を得ていた加害教員及び学校に対する不信感が一気に深まっていくこととなった。
学校側は、保護者からの質問に対して十分な情報提供をしないまま、基本的には教育委員会が設置した調査委員会の報告(12月予定)を待ってから、との態度であり、学校・教育委員会による積極的な問題解決の姿勢を示すことに欠ける状況であった。
◆ 地域住民としての対応
筆者は自宅玄関から東須磨小全体を見渡せるマンションに住んでおり、この小学校に通う子どもたちに毎日接している。そこで、このマンションに居住する保護者・住民に呼びかけて話し合いを重ね、提言書を提出することとした。
この度の東須磨小をめぐる驚くべき事態に深く心を痛めている保護者の数、また子どもたちの受けている精神的なショックは、想像以上のもので、こうした事態を一刻も早く解決し、教育本来の望ましい在り方に基づく学校を取り戻し、健全な教育を回復し力強く推進していく必要性を感じたのである。
私たちは、今後の教育・学校の在り方について、真剣に考えた結果、私たちの考える東須磨小の抜本的な改革案を急ぎ提案し、可能ならばと、その実施・実現に向けて、関係部局等(教育委員会、当該小学校、市長)に提言した。
この「緊急改革提言」は次の4本柱の実現を訴えるものである。
1 加害教員による子ども・保護者への一刻も早い直接「謝罪」の必要性この提言は、『朝日新聞』神戸版でも紹介されたため、若干の議論を呼ぶところとなった。
2 学校名変更の必要性とその意義
3 教職員総入れ替えの必要性とその意義
4 神戸市の教育界に通常の人権感覚を取り戻すために
古くからの住民の中には、同小学校の卒業生もいて、「校名の変更はどうも…」という意見も聞かれた。しかし、著名な学者で教育関係の学会の会長をも務めた研究者から次のようなコメントが寄せられたことは、私たち提言者にとってはうれしい一幕であった。
「…それにしても、近隣のマンション居住者有志(住民)が、こうしたアクションを積極的に提起・実行されたことにも驚くとともに、ある感動を覚えました。教育における住民自治の一つのあり方であるとも思いました」
◆ 教育委員会の対応
神戸市教育委員会は本年9月2日、E教諭の家族の訴えにより調査を開始し、10月1日より加害教員4人を東須磨小の公務より外し、有給休暇扱い(事実上の自宅謹慎)とする措置をとった。
10月7日には、教育委員会の指導主事F及びG並びに市内の小学校教諭Hを東須磨小教諭に任命するとともに、教育委員会課長Iを東須磨小担当課長(兼任)に発令した。
また問題となった事件の現場である家庭科教室の改装のほか、カウンセラー1名の常駐を図ることなどの関運対策措置を講じている。
◆ 神戸市・市長部局の対応
久元喜造市長は事件後の10月17日、総合教育会議を開催し、「事案は教委のガバナンス欠如によるもの」との認識を示すとともに、10月24日の定例記者会見で市長部局に教育行政支援課新設、教育委員会に改革特命担当課長配置することを発表(ともに11.1付)するとともに、市民からの批判が多いとして、有給休暇中の加害教員への給与支給停止可能条例案を市議会に提案すると発表した。
こうした措置を実施するため、職員の分限・懲戒条例改正案を市議会に提出した。一部会派の反対があったが、条例案は圧倒的多数で可決成立し、直ちに10月30日公布・施行された。
◆ 加害教員への処分についての問題
神戸市教育委員会の職員分限懲戒審査会は、本件条例施行直後の10月31日、加害教員への「本件改正条例適用は不相当で、第三者委員会報告後、速やかに懲戒処分をされるべきである」とのコメントをまとめたが、その直後に開催された臨時の教育委員会会議は、加害教員4人への一括処分に慎重意見もあったものの、最終的には全員一致で分限休職処分とし、同日からの給与差し止めを決定した。
久元市長は、コメントを発表し、「審査会の判断は法律及び改正条例の解釈として適切かどうか疑問である」と主張し、「どうしても(条例改正が)必要だった」「審査会の見解は適当ではない」と改めて強調した。
◆ 処分の妥当性判断の適否と今後の方向
市民感情を背景とした市議会の条例改正、市長のやや強引ともいえる主張は、法不遡及の原則、程度の差がある加害教員4人の行為についての「一括処分」など、教育界では世論に押された「泥縄式」との批判も聞かれる。
また、加害教員の1人は11月8日、市教委人事委員会に「分限休職処分」の取り消しを求める審査請求書を提出しているなど、この処分については、問題山積の状況にある。
また、今回の問題発生の要因の一つともいわれている人事異動ルールであるいわゆる「神戸方式」の2022年春からの廃止問題や、市内の市立学校長約250人及び市教委幹部ら約70人の冬のボーナス増額分(計約1000万円)見送り問題も現在議論の途中にある。
なお、第三者委員会による報告書が今月(12月)中に公表される予定であり、基本的にはこの報告書の内容にそった加害教員の処分が行われる。
『子どもと教科書全国ネット21NEWS 129号』(2019年12月)
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