秋だからセンチメンタルになっていたのか、
私の顔をみるやいなや、友人はわんわんと泣き声を響かせた。
あら、男泣きなの?と声をかけながら頭を撫でていると、
ありがとう、ありがとうと言って、私の手を強く握った。
そして友人は自分が「多発性硬化症」であると告白した。
あれほどまでに頑に拒んでいたはずなのに、
今日は人生相談をしたいと申し出てきた。
いいよ、気が済むまで話を聞くよ。
ずいぶんと辛かったね。
私が言いたいことを代弁するし、
私にできることはなんでもやるよ。
だから安心して任せておけ!
ウインクの合図は、友人曰く理解したとの意味らしい。
今日は空が重いから、いつも以上に言葉がうまく出てこないらしく
頭を掻き毟っている。
ウインクで十分よ。
あとは魂で会話しよう。
友人とは夏のはじめ頃に出会った。
私が社会復帰の訓練のために通所先に選んだ障害者支援センターで、
そのときもウインクを投げられたのがはじまりだった。
すぐに意気投合した私たちは、
言葉の上ではコミュニケーションに問題がある友人が、
そこのスタッフに理解されずに悩んでいること、
やることを否定される怒りや悲しみ、
味方がいなかった心細さで押し潰されそうだった月日など、
魂で会話できる術を私に教えてくれたことで、
私たちにはコミュニケーションの問題はまったく起こらなかった。
しかも、私が健常だったときには常識だと疑わなかったすべてを、
障害者への偏見含め、間違いであることを教えてくるたのは彼だった。
なんだかさ、健常者って決め付けてくるし、頭かたいし、
わかった風でいるけど、なーんにもわかってないよね?
体は健常かもしれないけれど、心がそうとは限らない。
私たちが容赦してあげているなんて想像すらしていないもん、と言うと、
そうそう、そのとおり、心の友はわかっているなぁ~と言う。
けらけらと笑い、はしゃぎ、声をあげながら喜びを表現してくれるので、
ね?心の友はわかっているでしょ?と私は調子に乗った。
ウインクをして、友人と手の平を合わせる。
魂のつながりは強靭だもの。
私の友人は介助も配慮も必要である身の上なのに、
私に配慮する気遣いをみせてくれる優しさ溢れる男だ。
彼は私にいろいろなことを教えてくれる。
きっとこれからもたくさん、いろいろなことを教えてくれるだろう。
多発性硬化症についての説明となります。
http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/068.htm
彼の言葉を聞き取れるのはセンターでは私だけなので、
http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/068.htm