正月恒例になったシリーズNHKBS欲望の資本主義2024を見ました。元日放送予定でしたが、震災で中止となり、1月11日の放送になりました。例年日本と世界の経済を分析、専門家により深堀をした内容の濃い良い番組で勉強になるので備忘録を兼ねてまとめをブログに記載しています。今年の内容は表題が?と思ったのですが、例年以上に良くできた内容で、通常問題点を抽出分析して終わるのですが、今年は日本の失われた30年を脱するヒントまで具体的に描いた点で素晴らしいと思いました。ご覧になっていない方は一見の価値ありと思います。以下章ごとにrakitarouが勝手にまとめてみます。
欲望の資本主義2024「二ッポンのカイシャと生産性の謎」
第一章 GDP4位「スローの国」ニッポンのジレンマ
GDPが4位に落ちたのは、それが日本の実力であり、早急な社会の構造変化を嫌ってスローな変化に甘んじた結果でもある。海外から見ると以前の様な魅力が日本の産業社会にない事も明らか。
円安と物価安定は外需型産業には利益を生んだが、内需型産業は物価が上がるだけで賃上げにつながらず、労働者が我慢をすることでしのいでしまっている。
日本の労働生産性が低い構造的原因は何か?
第二章 デジタル化の中忍び寄る「新しい封建制」
デジタル化、AIによって無形資産経済の占める割合が社会で増加して、労働者が締め出され、階層化、分断化がかえって進んだ。一方通行のデジタル化が必ず「良い社会」に向かうとは限らない。階層化が固定する新たな封建制ができつつある。
第三章 「新しい資本主義」の鍵は無形資産とジョブ型?
生成AIなどの無形資産の産生と活用をどう取り入れるかが鍵。無形資産は模倣(spillover)されやすく、回収できないコスト(sunk cost)もかかるが、拡張性(Scalability)があり、活用の仕方で相乗効果(Synergy)を生む。いかにマイナス面も認めながら総合的にプラスに持ってゆくかが経営者の手腕。日本のカイシャ構造の硬直性では対応しきれないだろう。
組織にとらわれず自分の得意とするスキルで生きてゆく「ジョブ型労働」が流動性を生む。終身雇用の「カイシャ」に固定されて、専門性を持たず種々の仕事をこなしてゆく「メンバーシップ型労働」が実は生産性が上がらない原因となっている。ホワイトカラー労働者に多機能性を求める事がいけない。戦前の日本の方が「ジョブ型」労働が主体であり、働き方改革はジョブ型への回帰を促している。
第四章 カイシャ逆襲の一手は?
日本でも素材や工作機械製造などのニッチを責める第二次産業の企業は中小企業でも世界でも認められている。多数の労働者を抱える第三次産業がデフレを作り出している。労働も商品とみなしてストを外国の様に行うべき。労働者もカイシャの一員という考えが家族的でありすぎて足を引っ張る。
第五章 ジャパン・アズ・ナンバーワンの逆説
日本の工場労働、ブルーカラーは世界の手本になったが、ホワイトカラーはならなかった。日本のカイシャはピラミッド構造で意思決定をするが、脳の認識と同じやり方をカイシャも続けて良いのか?メインバンクシステムが本当に必要か?
第六章 生産性の定義が変わるとき
日本人の半分は才能を仕事に生かせていない。生産性が低いのはそのせい。階層構造で社長に上げないと意思決定ができない構造では永久に未来はない。全員がブルーカラーで全員がホワイトカラーであるデンマークの例を紹介。出退勤の管理自体をすでにしていない会社が世界的に成功している。
最終章 シン中間層がピラミッドの呪縛を解くか?
従来の資本主義は資本家が生産手段を所有して労働者は労働を提供するのみであったが、無形資産を売る時代においては、労働者が生産手段まで所有して製品を作るので資本家は資本を出すだけになり、従来のピラミッド構造が崩れる可能性がある。ソースタイン・ヴェブレンは「営利を追求する企業は最終的には全てを失う」と予言したが、人間は労働に喜びを見出すものであり、「製作本能(instinct of workmanship)」を持っている。製作本能を開放することでホワイトカラーとブルーカラーの垣根を無くし、人それぞれが持つ才能が仕事に生かされるようになると生産性はもっと上がるのではないか。全ての人がシン中間層として小資本家、小経営者として生きることで世界に通用する産業構造を作ることができるのではないか。
以上まとめ。
正社員のホワイトカラー事務職全てにiPS細胞の様に多機能性を求める事が低生産性の元になっている。というのは鋭い指摘と思いました。仏教の教えに「人の役に立つ、人に必要とされる、人に褒められる」事が幸福を感ずる要素である、というものがありますが、人を社会に置き換える事で、「管理」などされなくても「製作本能」にしたがって仕事をすれば、幸福を感じて生産性も自然に上がるというのは無理のない改革案と思いました。それは現在世界を支配している巨大資本も、油断をすれば別の企業に替わられる可能性もあることを示唆していて、日本だけでなく世界の企業全てに当てはまる内容だと思いました。
追記2024年1月21日 日本でもモデル企業がある。
本日のTBSがっちりマンデーでは、ライザップの瀬戸社長の経営方法が密着取材で紹介されていましたが、トレーニングジムという「無形資産」の運用をまさに「ブルーカラーとホワイトカラーの垣根をなくす」「ピラミッド型決定の否定」を実践している事が分かりました。チョコザップを猛烈な勢いで展開している背景は、「社員の提案は一度全部採用」「最終決定は顧客のデータで」を社長が徹底している。NHKで紹介されていたデンマークのモデル企業と同じやり方。日本の大企業もこれができれば世界で生き残れるという事がよくわかりました。これは大学運営や病院運営にも言える事だと思います。