rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

新型コロナ変異種は脅威か?

2021-03-16 19:09:43 | 医療

新型コロナ感染症の感染者数が春の訪れとともに世界的に減少しています。延長した非常事態宣言も終了の方向になりつつありますが、新型コロナウイルスの変異種による感染が広がりつつあり、その変異種の毒性が強いという「触れ込み」で新たな恐怖を煽る行為がメディアによって続けられています。論文名やジャーナル(専門誌)も紹介して死亡率が高いといったアジテーションが行われています。また旧来型よりも若年者の感染が増加している事も変異種の脅威を強調する原因として使われています。私も基になった論文を読んでみて、メディアで紹介されている事は「事実」であると確認しました。但し、事実記載のどこを紹介するかによって「脅威が事実」かどうかは変わります。以下に医学論文を「脅威に見せるマジック」について科学者の目で種明かしします。

 

〇 死亡率は1.64倍だが、生存率が99.7%から99.6%になっただけ。

 

変異種と元の種の死亡率を比較したBritish medical journalの論文(参考1)では要旨(abstract)の結果に示した様に「95%の信頼区間をもって感染者の死亡率が1.64倍増加した」(図の黄線)とあります。しかしそれは倍率の比較であって、死亡者の実数はそれぞれ5.5万人の患者のうち、死者141人と227人の比較であって、生存率は99.7%であったものが99.6%になっただけだということも論文で示されています(下図)。100人の患者のうち、0.3人が死亡していたのが0.4人になったのが天下の一大事でしょうか?しかも後に示すように、この増加も「統計的なマジック」である可能性があるのです。

BMJの論文研究のデザインがMatched cohort studyと明記されている事も注目  結果に旧型生存率(99.7%左コラム)と変異種生存率(99.6%右コラム)を示す

 

〇 変異種は感染力と若年層への感染は増加したが、死亡率や毒性は変わらない。

 

やはり変異種と元の種の感染性と毒性を比較したCellの論文(参考2)では、要旨に「変異種の感染例には死亡率と臨床的な重症度の増加は認めないが、感染力と若年層への感染増加を認めた」(図の黄線)と明記されています。BMJもCellも世界的に一流の雑誌ですが、何故片方は死亡率が増加し、片方は死亡率や毒性は変わらないという結論になるのでしょう?それは統計を取るための母集団の調整にあります。やや面倒くさい内容になりますが、興味のある方は読んでみてください。本来科学論文を正しく解釈するのは面倒くさいものですし、それができない人、嫌な人は元々専門的な科学・医学を語る資格がないのです。

論文要旨に死亡率と重症度は変わらないと明記されている

 

〇 Cellの論文は実数の比較で論じている。

 

Cell論文の図3として示されているものを示します。図Eは診断後28日以内に死亡する率の変化をグレーの旧型とオレンジの変異型に分けて示したもので、どちらも変わらない事が図上で解ります。一方で図Fに示す様にオレンジの変異種に感染する年齢層が60代以下に多いことが解ります。図Gではゲノムコピーが614Gの変異種で(ゲノム量を測れるリアルタイムPCR上)多く見つかった事が示され、変異種の感染力の高さが示唆されています。これらの結果から「感染力(ウイルス増殖)と若年者への感染は増加したが、死亡率や毒性は変わらない」という結論が導かれたのです。

感染確認から4週以内の死亡率(オレンジが変異種)    感染者の平均年齢の推移(オレンジが変異種)    感染確認時のウイルス量の比較(これはグレーが変異種)

 

〇 BMJの論文はmatched cohort studyと断っている。

 

一方で死亡率を比較したBMJの論文は比較した集団の条件を厳密に一致させた上で死亡率を比較した論文です、と見出しの部分にわざわざ記載しています。これは「医学論文において、ある治療法や薬物の効果、死亡率を比較する時は比較する集団の条件を一致させる必要がある」という大原則に従っている事を示しています。一方が元気な若い人ばかり、もう一方が80歳以上の高齢者で死亡率を比較すれば同じ100人の比較でも高齢者の死亡率が高いのは当然です。だから年齢、性別、人種、医療サービスのレベルなどを一致した上で旧来型と新種の死亡率を比較したのがこのBMJ論文です。しかし全体の母集団から同じ条件の集団を選別してゆく過程で実は「現実」からの乖離が起こってしまうリスクがどうしてもあるのです。図は191万人の患者から条件を合わせるために旧来型54,906名、変異種54,906名に数を絞ってゆく過程を示したもので、母集団のわずか5.7%の集団について検討して、死亡率を比較した事を示しています。もう一方の図に示す用に、年齢、性別、民族は両群間でほぼ一致していることが解るので、比較試験としては適切であると言えます。

母集団から比較する集団を絞り込んでゆく過程     絞り込んだ結果、各集団の条件が年齢、性別、人種間で合っている事を示す

 

〇 matched cohort studyで死亡率に差がでる仕組み

 

この集団を調整する過程で死亡率に差が出る仕組みを非常に単純化した図で説明します。10人中3人が死亡する死亡率30%のウイルスで変異種Aは50歳以下が3名、Bは若年層にやや多い6名が感染したとします。生死は0か1で0.5人死亡はありえないので、本当はx100倍の人数で計算するべきかもしれませんが、単純化のため敢えて10人で計算します。51歳以上の高齢者の死亡率は共に半分位で42%、50%です。死亡率のマジックは、病気で死亡したとは限らない事です。世界中のコロナ死亡の多くは元々ある合併症の悪化であったり、老衰であったり、中には交通事故でなくなった人も感染陽性であればコロナ死亡になっている事は良く知られています。これは医学統計では常識であって、overall survival(総生存率)はdisease specific survival(疾患特異的生存率)よりも常に低いのが当たり前なのです。上記の参考論文では、いずれもコロナ感染による死亡を「感染判明後4週目までに亡くなった人の数」で定義していますが、これでは頑張って治療したけど6週間目に死亡した人は「生存者」に、元々心不全で死にそうだった人がたまたま感染陽性と診断されて2週間目に亡くなっても「コロナで死亡」にカウントされて統計化されてしまいます。これは感染判明後4週間までに亡くなった人を「コロナ感染症が悪化して死亡」とカウントするのが実際の感染症による「疾患特異的死亡」の実数に近い、という論文化された中国武漢での研究結果を踏まえたものだと論文内に説明されています。一般的には世界の「新型コロナ感染症の統計」で感染者の死亡は2-4%とされていますが(日本は2%前後)、発症して重体になり死亡する「疾患特異的」な死亡は全死者の6-7%とCDCも発表していますので、論文で示されている生存率99.7%程度というのは感染判明者の疾患特異的な生存率の近似値として正しいだろうという事になるのです。

ここで、集団を合わせる事で死亡率が変わる説明になります。変異Aと変異Bの死亡率を比較するためにmatched cohort studyをするため、50歳以下と51歳以上の人数を合わせます。Aの50歳以下は3名なのでBも3名にするほかなく、51歳以上のBは4名なのでAも4名で合わせるほかありません。ではそれぞれの人数に調整した後、死亡率を比較すると、Aは24%、Bは35.8%と変異Bの死亡率が上がってしまいます。これはかなり解りやすく単純化したものなので極端な例と言えますが、母集団における死亡者数は変わらないのに集団の調整をした段階で死亡率だけが変わってしまった事が解ると思います。

 

比較をするには集団の条件を合わせる必要があるので、変異Bの死亡率はAより高いという結果は嘘ではありません。しかし、全体の死亡者数が同じである、というのも真実なのです。これが統計やサイエンスの限界であると言えるでしょう。要は論文をどう読み解いて、それを実際の政策や治療に生かすかという「ヒト」の意図や能力が問題なのだと理解いただけたでしょうか。

 

参考1 Challen R et al. Risk of mortality in patients infected with SARS-C0V-2 variant of concern 202012/1: matched cohort study. BMJ 2021 372n579

 http://dx.doi.org/10.1136/bmj.n579

 

参考2 Volz E et al. Evaluating the effects of SARS-C0V-2 spike mutation D614G on transmissibility and pathogenicity. Cell 184, 654-75 2021 (Jan 7)

https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.11.020


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