キャピタル・ワン・ファイナンシャルの店舗(ニューヨーク市)
「キャピタル・ワンでクレジットカードをつくった。使いやすく煩わしい手数料や海外利用の際の手数料もかからない。
カードを初めて持つような若者に適している」。米首都ワシントン近郊に住む20代のサムさんは満足げにこう話す。初めてカードを持つ周りの友人に勧めたところ、ほとんどが承認されたという。
キャピタル・ワン・ファイナンシャルはカード事業を柱とする金融サービス会社だ。信用履歴が少ないといった理由で通常ならカードを持つことが難しい顧客を開拓してきた。
23年度の純営業収益(売上高に相当)は367億ドル(約5.4兆円)とリーマン・ショックの影響が残る10年度と比べ約2倍になった。
9月末の株式時価総額は571億ドルで、金融関連では米バンク・オブ・ニューヨーク・メロンなどを上回る。
爆発的な成長を支えたのがデータとテックの融合だ。
米国で広く使われる信用スコア「FICO」が物語る。FICOスコアは850点満点で個人の信用力を評価する。
キャピタル・ワンによると、2023年末時点で信用力の低いサブプライム層とされるスコア660以下のカード利用者が全体の32%を占めた。全米の平均スコアは約710とされ、それ以下の利用者も積極的に取り込んでいる。
なぜ信用力が低い顧客も取り込めるのか。キャピタル・ワンは信用スコアを含む信用調査機関のデータや申請情報も用いた独自のモデルで審査し、支払い能力のある人などを選別する。
信用スコアが平均以下でも返済に支障を来しにくい人のパターンを消費動向などから分析。蓄積したデータで信用判断の精度を上げる。
カードを切り口にさまざまなサービスを提案するクロスセルにも強みを持つ。「キャピタル・ワン・ショッピング」はネット通販サイトの中から、セール商品やデジタルクーポンを自動で検索して顧客に購入を促す。
自動車の販売価格の比較サイトも運営し、顧客に合わせたローンと組み合わせるなど金融と非金融の融合が強みだ。
サービスの進化を支えるのが人工知能(AI)など先端技術への取り組みだ。
米エビデントが発表した世界の主要金融機関50社のAIへの取り組みを評価したランキング(23年11月時点)で、キャピタル・ワンは米JPモルガン・チェースに次ぐ2位。「JPモルガンの優位性に唯一対抗し得る銀行」との評価だ。
同調査によると従業員の1割強がAI関連の業務に従事し、その割合は平均の4倍に相当するという。
不正行為の探知や顧客対応、顧客の行動パターンを分析してサービスを提供するのにAIを活用する。「AIの成熟度の高さがキャピタル・ワンの成長をけん引した」(米調査会社アーガス・リサーチのスティーブン・ビガー氏)
次の一手が規模による成長だ。24年2月、国際ブランド「ダイナースクラブ」を持つディスカバー・ファイナンシャル・サービシズを353億ドルで買収すると発表した。
キャピタル・ワンのリチャード・フェアバンク最高経営責任者(CEO)は「最大の決済ネットワークで競い合うことのできるまたとない機会になる」とみる。
23年度のカード利用額はキャピタル・ワンが6060億ドル、ディスカバーは2180億ドルだった。買収で首位のJPモルガン・チェース(1兆1640億ドル)の背中が近づく。
カード事業は顧客管理のシステム負担が重い半面、規模のメリットが効きやすい。業務効率化などで27年度までに27億ドルのシナジーを生み出す計画だ。
規模拡大のためにマーケティング費用などが先行し純利益は低下傾向にある。カード事業の不良債権比率は23年度で4%台半ばと前年比で約2ポイント上昇した。
キャピタル・ワンが得意な低所得者層ほどインフレによる影響を受けやすくなるため、不良債権の発生を一定以下に抑える必要がある。