石破首相は資源外交を通じトランプ大統領(ゲッテイ共同)との関係構築を狙う
石破茂首相は米国訪問とトランプ大統領との初の首脳会談に向けて本格準備に入った。米国から2月前半の日程の打診を受けた。
米国産シェールガスの輸入拡大のディール(取引)を視野に据えた協議を想定する。輸入拡大の展望を示し円滑な関係構築を狙う。
トランプ氏の大統領2期目で初となる議会演説が3月4日に実施される見通しとなり、日米首脳会談の日程も固まりつつある。
米側から打診してきた2月前半は、すでに日本側が米側に希望として伝えていた時期と重なる。首相は国会日程を考慮して最終判断する。
首相は訪米時には資源外交を前面に打ち出す方針だ。トランプ氏は20日の就任演説で「米国は地球上で最も多くの石油とガスを持っている」と強調した。
自国内の化石燃料に関して「掘って、掘って、掘りまくる」と述べ、増産と輸出拡大を推進する構えだ。
首相周辺は「トランプ氏とディール外交に臨むならシェールガスの確保がふさわしいテーマのひとつだ」と話す。
世界のエネルギー市場への影響力を高めようと動く、トランプ政権の動きに呼応する。
米国では地中深くにある硬い頁岩(けつがん、シェール)に含まれる石油や天然ガスを掘削できる新しい技術が開発され、2000年代後半から生産拡大が可能になった。
エネルギー自給を達成し、17年からシェールガスの対日輸出も始まった。
23年の日本の液化天然ガス(LNG)輸入はオーストラリア、マレーシア、ロシアの3カ国で6割強を占めた。
米国のLNGはメキシコ湾岸地域にある天然ガス液化基地からパナマ運河経由で日本に運ぶ。輸送ルート上に地政学リスクが少ない。
23年に全体の8%だった米国からの輸入拡大は日本のエネルギー安全保障の強化に重要な役割を担う。
資源外交は首相が「政治の師」と仰ぐ田中角栄元首相が打ち出したテーマでもある。1月前半の東南アジア訪問でも布石を打った。
マレーシアのアンワル首相とは同国からのLNGの安定供給を確認した。二酸化炭素(CO2)を回収して地下に貯留する「CCS」や、CO2を排出せず発電や燃焼に利用できる水素分野などでの協力も確かめた。
インドネシアのプラボウォ大統領と脱炭素化に向けた資源・インフラ協力の推進で一致した。
脱炭素の枠組み「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」の構想を受けた地熱発電事業を歓迎した。
日本の首相は米国で新政権が発足して間を置かずに訪米している。
17年のトランプ氏の1期目は2月に当時の安倍晋三首相、21年のバイデン氏の際は4月に菅義偉首相が訪れた。石破首相の訪米のタイミングはトランプ氏との今後の距離感とも連動する。
トランプ氏との会談は数度調整したものの、実現に至っていない。政府内にトランプ氏が大統領に就任した20日以降のほうが中身のある会談になるとの判断があった。
岩屋毅外相が新政権の発足直後の21日、ワシントンでルビオ国務長官と会談した。首脳会談へ課題を整理する狙いからだ。
訪米を見据えて首相官邸内で準備が本格化している。外務、経済産業、財務、防衛各省の担当者らが対策を協議する。
首脳会談で打ち出すテーマや、トランプ氏の興味の方向や考え方の変化を集約、調査している。
首相自身も自ら情報収集する。7日に都内でソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長と2時間半会食した。トランプ氏と近い孫氏から助言を得る狙いがあった。
孫氏は21日にトランプ氏と面会した。トランプ氏は同日、SBGや米オープンAIなどによる米国の人工知能(AI)開発事業への巨額投資を発表した。孫氏は全米にデータセンターを建設し、その電力需要を賄う発電施設も併設する構想を持つ。
首相もまたAI社会の進展を見据え、データセンターの設置や半導体製造、電力需要の増加に対応した発電所の確保などが欠かせないとみる。
1期目のトランプ氏と親密な関係を築いた安倍元首相は、首脳会談のたびに日本企業の投資と現地雇用の増加を地図に落とし込んで説明していた。
定量的に貢献を示すことで、経済政策でつけ込まれる隙を与えず、安全保障など他の分野でも協議を円滑に進めるための戦略だった。
米南部ルイジアナ州の天然ガス液化・輸出拠点(2022年)=ロイター
石破首相はこうした手法を踏襲しながら、エネルギー分野やAIなどの先端分野での協力深掘りを探る。
重点政策に据える地方創生は、中西部のラストベルト(さびた工業地帯)を票田とするトランプ氏と同じ基調を持つ。国内投資の重要性で歩調を合わせようという思惑が透ける。