
人工知能(AI
)が驚異的な進化を遂げる今、ビジネスパーソンは何をどう学び、どのようにスキルを磨けばいいのか。NIKKEIリスキリングが様々な有識者にインタビューする企画「AI時代のリスキリング」。今回は、前週に引き続き、"スーパーIT高校生"として一躍有名になり、現在は複数のスタートアップでCTO(最高技術責任者)として活躍するTehuさん。後編では、AIと共生する未来はどう見えているのか、そのなかで働き方はどう変わるのかを聞いた。
スキルよりスタイル
―前回は知的労働の価値が崩れ始めているという話を伺いました。その話でまたTehuさんのツイッター投稿を思い出したのですが、「(お笑い芸人の)コウメ太夫さんのような人が生き残る」って投稿していましたよね。
コウメ大夫さんのネタで「女子高生だと思ったら、太陽光パネルでした!」っていうのが僕は一番好きなんです。意味わかんないじゃないですか(笑)。
そんな展開、AIからは絶対でてこない。要は、ChatGPTがお得意の「連想あるある」では絶対たどり着けないこと、「ないない」を生み出せる人が価値が出るはず、ということを言いたかったんですよね。
AIが普通の「あるある」を自動生成できるから、これからはもっとすごいジャンプを続けてスタートと違う結論に達するというアクションがすべての業界で求められると思います。
そして最上位にあるのは欲求だと思います。
GPTに最初に打ち込むワード、それは欲求からしか生まれない。リスキリングも、何をやりたいかという欲求からスタートするはず。だからスキルじゃなくて、スタイルに近いんじゃないですか。
スキルとスタイルって僕は対義語で使うんですけど。「あなたはどういうスタイルでいたいか?」っていうことのほうがこれから重要になってくると思います。
――スタイルというのは?
原体験に裏打ちされた問題意識、です。
例えば自分が持っていてよかったなと思うのは、怒りの感情。僕は「なんでこうなるんだ」と義憤を強く感じることが多い幼少期を過ごしました。
AIが語る日本における差別みたいなテーマって、僕の経験に裏打ちされたものとは表層的には一緒でも奥行きが全然違う。これからの時代、どれくらい問題意識をもてるかがすごく大事になってくる。
(「小4なりすまし事件」がSNSで炎上した)過去の経験から世の中において「問いは死んだ」と思っていました。
ほんとに問いをいくら投げかけても誰もまともに答えてくれないし、SNSによって人々は物事に疑問を持たなくなってしまったんだと、悲観的に捉えていました。
そういうところから少し変わって、問いを問えるということにすごく価値が生まれるんじゃないかと、今は期待をしています。
経験に向き合うのはつらいけど……
―学び方も180度変わりそうです。問いを持つ人になるには、経験をひたすら積むしかないのでしょうか。
ただ、経験するだけでは血肉にならないです。経験から学ぶという、昔からやってきた、脳の根本的な価値が評価されるようになるのではないでしょうか。
1回やって失敗したものを2回目やるときに修正できるかといった能力は人間の根本的な能力だと思うんです。
勉強もスポーツも仕事も大元の能力は同じ。「こんなことがあったな、楽しかったな」という経験の記憶だけじゃなくて、その中で得た何かしらの感覚を反芻(はんすう)して、「あれはこうだったんじゃないか……」ってもんもんと考えて、「ということは、これはどういうことなんだろう?」と疑問を持つ、本来の脳のスペックみたいなものが、これからより問われると思います。
経験に向き合うってつらいことも多いんです。自問自答を繰り返したり、疑心暗鬼になったり、考えれば考えるほど結局自分はちっぽけな存在だなって思ったりすることはつらいから。
でも、本質的な自分自身の経験に向き合って、そこから問題意識を抽出して、醸成して、もっと世の中こうなんなきゃダメだとか、もっと自分自身がこうならなきゃダメだといった意志を持ち続けられる人が結局、どの時代も強い。
ChatGPT秘書同士が「ご主人様」の都合を会話する未来
――最近はどんな「問い」を考えていますか。
コミュニケーションの方法がどう変わるのかなというのは最近、ぼんやり妄想しています。
いまオープンAIは人類全部で1つのシステムを使っていますが、それが民生用コンピュータに入る日はそんなに遠くないと思うんです。
そうすれば、一般的な知識だけではなくて、自分のことをよく知っているMyGPTが1人1台持っている状態になる。
仮にChatGPT同士で会話するとしたら、わざわざ人間に理解できるような言語にする必要がないので、ChatGPTだけが理解できる機械語みたいなものを生み出した方が効率いいですよね。
勝手に機械同士でどんどんコミュニケーションが進んでいくと、じゃあもう人間がいらないんじゃない、みたいな。
―勝手に「GPT秘書」同士がやり取りしてくれると。
例えばビジネスシーンだと、お互いのGPT秘書はそれぞれのご主人様の主義主張とか、絶対に譲りたくないポイントもわかっているはずです。
そうすれば交渉の事前に互いのGPT秘書がめっちゃコミュニケーションした上でご主人様同士が会うアポイントとる。秘書からメモ上がってきて、「交渉のポイントはこういうことなんで、こんな感じで話しといてください」という感じ。
いいことのように思えますけど、よく大臣が官僚から渡されたメモ読んでるだけだという批判があるじゃないですか。それと一緒ですよね。
―意思決定は一体誰がしているのか、というちょっと怖い展開ですね。
AIが意思決定している。実は人間が下である、人間はそうは思っていないが、みたいな状況ですね。
こうやって言うと奇妙に思うじゃないですか。でも、奇妙じゃない感じで、ホワイトニングされたサービスとかが普通に出てくるような気がするんですよね。
例えば、Slack上のコミュニケーション全部をGPTに読ませたりとか、オンラインミーティングも全部自動で書き起こしして自動でGPTに読ませるみたいなのをずっとそこにため込んでいって、ある日ちょっと質問したら「それ、何月何日のこのミーティングで、こう議論しましたよ」と返してくれるみたいなやつって、もうすでに作ってる人たちがいます。
会社単位で考えると、各社のGPT同士で話したら、提携交渉とか一瞬で終わりそうだし、契約書とかも簡単に作れそうです。そうなると、法務担当者がいらなくなるとか、労働力の削減とかシンプルな話ではなくて。よくよく考えると、「人間がAIに働かされているのでは?」っていう話になりますよね。
組織の構造として、何かしら強い欲求や目的意識を持っている経営者などが上にいます、これは変わらない。ただ、その下で人間とAIが協働して働いているところ、ここの関係性は実はAIが上。「人間-AI-人間」というサンドイッチ組織になるんじゃないかと。
――中間管理職がAIになる?
そう、AI管理職。普通の会社だと意外と管理職がいらなくなるかもしれないです。経営者から出てきた目標に対して戦略を練って、こう動けって指示するのは、AIでできそうです。
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「AIによる仕事効率化の後のことを考えるべき」
―そんな未来に、働き方やキャリアをどう選択していくようになるんでしょうか。
選択肢はおそらく3つ。何か作りたいと思うんだったら昇進を待つんじゃなくて、AIを使う経営者側にいく。あるいは、AIに使われるか、お金のために仕事をすると割り切って余暇を充実させるか。
そもそも、今みんなAIの進化に注目しすぎているんですけど、AIが様々な仕事を効率化したあと、「残りの時間をどうするの?」ということが日本では問題になる気がするんです。
仮にベーシックインカム(最低所得保障)のような支援制度が導入されて、「これから週1勤務でいいです。
会社から払う給料は減るけど国が補填してくれるので所得は変わらないです」と言われたら、みんな実際どうするんでしょう?
本気で「私は私でいい」と言えますか?
給料が変わらないなら遊んだ方がいいと思って、最初の1カ月は楽しいかもしれない。
でも、FIREしてビーチで遊んでた人が結局戻ってきて働いている現象と同じように、日本人には難しいんじゃないかと思うんです。
なぜなら自分のwillがない企業戦士が多いから。せっかくAIによって生産性はあがったのに、存在意義を見いだせなくて心を病む人が街中にあふれることになりかねない気がして。それこそ日本の危機です。
経験に裏打ちされた問題意識に加えて、いかにして自己肯定感と自己愛を育むかも大事になってくるかもしれない。生きてるだけでOK、私は私だからいい、みたいな考え方を口先だけではなくて本気でできる日本人が増えるといいなと思います。
新しいテクノロジーを拒絶するのはいつも暇になることを恐れる人たちなんですよ。僕ですか?
僕は今まで10の投資をしないとできなかったことが1の投資でできるようになるから、そういうところにシンプルにワクワクします。
だからその先の怖い未来にいかないように、それぞれが問い続けて、頑張るしかないですよね。
(聞き手は安田亜紀代)
日経記事 2023.07.24より引用