横浜駅西口の商業施設に開業した「CATCH&GO(キャッチアンドゴー)」。
レジはなく、専用スマホアプリのQRコードをかざして入店すれば、あとは手ぶらで買い物ができる
棚から商品を取って店を出るだけ――。買うものさえ決まっていれば、最短10秒で買い物が終わるという「レジなしスーパー」が、ベールを脱いだ。
その名も「CATCH&GO(キャッチアンドゴー)」。イオン傘下のダイエーとNTTデータが2023年10月27日、横浜市内に出店した。
場所は、横浜駅西口を出て徒歩5分。旧ダイエー横浜西口店跡地を再開発した複合商業施設「CeeU Yokohama(スィーユー ヨコハマ)」の1階に、その店はある。
売り場面積は約50平方メートル。一般的なコンビニエンスストアの3分の1ほどの大きさの店内に、弁当やおにぎり、飲料、菓子、日用品など約400品目が並ぶ。コンビニと異なるのは、その価格。食品スーパーと同等の値ごろな価格で購入できる。
それもそのはず。この店は、同日オープンした「イオンフードスタイル横浜西口店」に併設され、同スーパーの売れ筋商品を扱っている。
棚を見渡すと、イオンのプライベートブランド(PB)「トップバリュ」のサンドイッチやレトルト総菜、100円(税込み108円)の袋菓子なども目に入った。イオングループの小型スーパー「まいばすけっと」をさらに小型にした品ぞろえだ。
35台のカメラと重量センサーで認識
特徴は、セルフレジすらない無人決済店舗であること。入り口にゲートがあり、専用スマートフォンアプリのQRコードをかざす。
するとゲートが開き、駅の改札を通るようにそのまま入店。あとは購入したい商品を手に取り、再びゲートを通って退店すれば、アプリに登録したクレジットカードで自動的に決済が完了する流れだ。
買い物中にスマホアプリは不要。棚の重量センサーと天井に設置した35台のカメラで、来店客がどの商品を何個手に取ったかを認識するため、商品のバーコードをスキャンする必要もない。顔認証すらなく、まさに歩いて出るだけの「ウオークスルー型」店舗だ。
「スーパー業界でレジがない、完全ウオークスルー型のお店はおそらく日本初。全く新しいお買い物体験、圧倒的な利便性を感じていただきたい」。ダイエーの山内洋リテールビジネス改革本部ICT企画部部長は、そう自信を込める。
二重チェックで精算ミスを防ぐ
CATCH&GOは、NTTデータが19年に発表したデジタル店舗運営サービスだ。中国の新興企業Cloudpick(クラウドピック)の技術を活用して開発。21年9月、ダイエーと組んで東京・豊洲のNTTデータ社内に実験店舗をオープンしたのが始まりだ。
豊洲の実験店では、1日約800人が利用し、ピーク時間帯だけで200件以上の決済をさばいている。その「正解率」は99.9%だという。
なぜ、これほど正確なのか。それは、すべての商品を3Dスキャンし、パッケージの特徴を記録しているからだという。そうすることで、棚の重量の変化だけではなく、カメラの映像でも来店客が何を取ったのかを分析できる。いわば、二重チェックを働かせることで、精算ミスを防いでいるのだ。
しかし、来店客はみな、手に取った商品を、そのまま購入するとは限らない。例えば、一度は買おうと思ったが、やっぱりやめておこう、と棚に戻した場合。CATCH&GOでは、棚に戻す動きと重量増加を根拠に、戻した商品を自動的に購入品リストから除外する。
そもそも、どの棚に何個の商品があるかは、従業員向けアプリでリアルタイムで確認できるようになっており、仮に間違った棚に商品が戻されてしまった場合も、アプリに通知が出る仕様になっているという。
複数人で来店した場合は、入店時に代表者と同じQRコードでゲートを通過することで1つのグループと認識。それぞれが店内で手に取った商品は、代表者のアカウントに一括して請求されるようになっている。
豊洲での2年間にわたるトライアンドエラーを経て、路面店でも安定的に運営できると判断し、満を持して出店したのが、横浜駅西口だった。ターミナル駅に近く、人通りも多い。1日約2万人の通行量があるパルナード通りに面しており、店舗から1キロメートル圏内に約4万7000人が居住する。老若男女に試してもらうには、うってつけの場所だ。
弁当とお茶、お菓子といった「ちょい買い」需要をつかみ、まずは1日約1000人の利用を目指す。「通勤通学やランチなど、タイムパフォーマンスが求められる時間帯に、この売り場が非常に役に立つのではないか」(山内氏)。コンビニよりもスピーディーに購入できることを体験してもらい、徐々に常連客を増やしていきたい考えだ。
レジがないだけに、懸念されるのは決済時のトラブルである。実験店舗では99.9%の正確性を誇るとはいえ、それでも1000人に1人はミスが起こり得る計算だ。
今回の路面店では、ダイエーが併設スーパー(イオンフードスタイル横浜西口店)と一体運営する。営業時間はどちらも午前7時〜午後11時。商品の陳列や補充も同スーパーの従業員が担うため、「完全無人」ではなく、万が一何らかのトラブルが発生しても、その場で対応できる。
さらに店内の滞在人数を12人までに限定。混み合いすぎると、同じ商品を複数人が重なるように取った場合に、誰が購入したかを正確に特定できなくなる恐れがあるからだ。
無人店舗につきものなのが、万引きの発生である。カメラやセンサーなどを張り巡らせることでその大部分は防げるが、コストアップは必至だ。人手不足が深刻化するなか、無人店舗への期待は大きいが、いかに低コストで運用できるようにするかという難題が立ちはだかる。採算性を高めながら多店舗化へと挑む、その第一歩を踏み出した。
(日経ビジネス 酒井大輔)
[日経ビジネス電子版 2023年11月9日の記事を再構成]
|
日経ビジネス電子版
週刊経済誌「日経ビジネス」と「日経ビジネス電子版」の記事をスマートフォン、タブレット、パソコンでお読みいただけます。日経読者なら割引料金でご利用いただけます。
詳細・お申し込みはこちら https://info.nikkei.com/nb/subscription-nk/ |
【関連記事】
日経記事 3023.12.19より引用