小型機「737MAX」は足元、生産できていない
米航空機大手ボーイングの混乱が世界の航空産業に打撃を与えている。
同社が23日発表した2024年7〜9月期決算は巨額の最終赤字を計上した。品質問題と労働組合のストライキで小型・大型機の生産ができないなか、受注残は約5400機と23年の生産ペースでも10年分に積み上がった。
寡占メーカーの停滞は航空会社や部品メーカーの経営を圧迫する。9月中旬から続くストが長引けば、影響はさらに深刻になる。
ボーイングが23日発表した7〜9月期決算は61億7400万ドル(約9400億円)の最終赤字に沈んだ。
1月に発生した小型機「737MAX」の機体事故をうけた品質問題でそもそも生産が滞るなか、9月中旬から始まった主力工場でのストが収益を直撃した。
7〜9月期のフリーキャッシュフロー(FCF)は19億5600万ドルの赤字。9月末の手元資金は3カ月前と比べ21億ドル減り105億ドルだった。
同社は手元資金の望ましい水準を「少なくとも100億ドル」としており、ギリギリのラインだ。ストは1カ月あたり10億ドル規模の資金流出につながっているとされ、財務面でも「止血」が急務といえる。
23日は9月から続くストが続くかを決める組合員投票の日にもなった。
米労働省高官が10月中旬から労使の仲介に乗り出し、会社側は4年で35%賃上げを柱とした新たな労働協約案を提示した。ただ、組合側はもともと40%賃上げなどを要求している。
投票の大勢は米西部時間の23日夜に判明する見通し。否決になれば、巨額赤字につながったストがさらに長引くことになる。
小型機・大型機の生産はゼロ
現状、ボーイングの小型機・大型機の生産はゼロだ。
ストが起きた西部ワシントン州シアトル郊外の工場群でつくっており、生産活動が止まっているためだ。一部中型機のみ生産を継続している。品質問題で小型機737MAXの製造が制限されたなか、ストが追い打ちをかけた。1〜9月の納入機数は291機で前年同期と比べ2割減となった。
問題は、折からの世界的な旅行需要の拡大で旅客機へのニーズも高いなかで、機体を生産できていないことだ。
旅行が消失した新型コロナウイルス禍から経済が正常化し、機体需要が一気に回復した経緯があり、そもそも航空機メーカーの生産は受注に追いついていない。
ボーイングの受注残は9月末で約5400機まで膨らんでいる。
23年通年のペース(528機)で納入したとしても、単純計算では解消に10年超かかる。一定の受注残は航空機メーカーの経営にプラスだが、いまのボーイングの供給は、膨らむ需要にまったく応えられていない状況といえる。
欧州エアバスの背中遠のく
世界の旅客機市場はボーイングと欧州エアバスの寡占下にある。2社はそれぞれ4〜5割の市場シェアを占めているとされる。
エアバスもサプライチェーン(供給網)の寸断で思うように生産が伸びていないが、ボーイングにとって、かつては格下だったライバルの背中はどんどん遠くなっている。
日本航空機開発協会(東京・千代田)によると23年のボーイングの受注機数は全体で1456機だった。
コロナ禍からの反動で22年から1.5倍に伸びたものの、エアバスは2454機と倍増しており約1000機の差が付いた。
特に深刻なのが、世界の航空産業の主戦場となっている小型機(100〜200席程度)での競争力低下だ。
小型機に限れば、エアバスは23年にボーイングの2倍を受注している。10年前までは競っていたが、ボーイングで18〜19年にも起きた小型機事故を受けて大きな差がついた。24年以降も差が広がる可能性がある。
航空各社からは不満の声が殺到
航空会社からはボーイングに対し、不満の声が殺到するようになってきた。同社の生産停滞が打開に向かう道筋がなおもみえないなか、自分たちの会社の事業計画に具体的なマイナス影響がでてきたからだ。
航空会社は旅客機が計画通りに納入されなければ運航計画が立てられない。小型機737MAXの生産遅滞をうけて、欧州航空会社ライアンエアーのマイケル・オライリー最高経営責任者(CEO)はこのほど、25年の運航計画を当初より減らす必要があるとの考えを示した。
ボーイングが次世代大型機「777X」の納期延期を10月中旬に発表すると、直後に中東エミレーツ航空のティム・クラーク社長は「ボーイングが意味のある納期予想をできると思えない」と批判した。
航空機産業を支える部品メーカーの経営にも影響が出ている。ボーイングを支える部品メーカー、米スピリット・エアロシステムズは18日、従業員約700人に対し、3週間の一時帰休を求めたと公表した。
ボーイングと取引関係が深い日本メーカーへの影響も必至だ。中型機「767」では15%、同「787」は35%、大型機「777」と777Xについては21%の比率で三菱重工業や川崎重工業など日本企業が機体生産に参画している。ボーイングによると、22年までの10年間で日本からの調達額は計300億ドルに上った。
ボーイングのオルドバークCEOは23日に開いた決算説明会で「再建には時間かかる」と強調した。ストが終結したとしても、生産回復を含めた経営再建には時間がかかる見通しだ。過去のストでは、納期の正常化に半年から1年間を要した。
ボーイングの労使はストが終わってようやく品質問題に腰を据えて取り組む「スタート地点」に戻るに過ぎない。「需要があるのにつくれない」という状態から抜け出せる兆しはまだみえてない。
(ヒューストン=花房良祐、井沢真志)
(参考)